クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。今回は、ファッションマガジン『STUDY』編集人の長畑宏明さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『就職しないで生きるには』
レイモンド・マンゴー(著)、中山 容(訳)
(晶文社)
自由と引き換えに失うものは致命的なまでに大きく、むしろ自由を得ることによって自由を失う感覚すらあるが、それでも自由とはかけがえのないもの。『就職しないで生きるには』の主人公はインディペンデントな生き方を模索し続け、真人間の枠を逸脱し続け、「それって結局不幸じゃないの?」という地点まで行き着き、それでも何とか自分に見合ったシステムを構築してみせる。いや、どうかな。それが彼に見合ったものかどうかなんて、客観的に判断しようがない。本には終わりがあるけれど、人生は死ぬまで続く。
タランティーノの映画『ヘイトフル8』では、賞金稼ぎのジョン・ルースが「生死を問わず」の賞金首を生かしたまま絞首台まで運ぼうとするのに対し、道半ばで出会った絞首執行人は「なぜそんな危険を犯す?」と問いかける。彼は答える。「楽な仕事なんてないんだよ」。そして、こう続ける。「絞首執行人の仕事を奪いたくないんでね」。
さて、「こんなに楽しそうな私を見て!」という自己啓発モノは大衆を「幸福な盲目状態」にさせるが、一人の人間が「自由という名の新たな不自由」を獲得するに至るプロセスを開陳した本著は、見事に何の救いも与えてくれない ...