クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。今回は、パピエラボ ディレクターの江藤公昭さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『建築を考える』
Peter Zumthor(著)、鈴木仁子(訳)
(みすず書房)
紙と紙にまつわるプロダクトを扱う「パピエラボ」という店をやっている。昨年秋に店を移転したのだが、新店舗のコンセプトを考える際に最も影響を受けたのが、スイスの建築家ピーター・ズントー(著書名はペ―タ―・ツムトア)の名著『建築を考える』だった。数年前にも読んでいて、建築に対する考察の深さに物をつくる意味を考えさせられた……と言いたいところだけれど、当時はほとんど理解できなかった。
本は、読むときの状況や気分によって頭に入ってくる内容が変わる。移転が決まったタイミングで再び何気なく手に取ると、以前は気に留まらなかったところがストンと自分の中に収まっていくようで、特にヨーゼフ・ボイスの素材の扱い方について言及している箇所は、自分が紙を扱う上で理想としている感覚が端的かつ明確に表現されていた。
同じ頃、店の仕入れのために訪ねたいアトリエがチューリッヒにあったことも重なり、スイスにあるズントーの建築も巡った。彼の建築を実際に体感すると、本に書いてあることが決して大げさではなく、その思想がスマートに表れているのを実感した。そこで得た感覚のおかげで、新店舗は身の丈以上の空間にできたので、空間に追いつけるように頑張るしかない ...