クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。今回は、詩人でもあり、装幀家でもあるカニエ・ナハさんに仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『中原中也全詩集』
中原中也(箸)
(角川ソフィア文庫)
中原中也は30歳という若さで夭折してしまったのですが、例えば「私はその日人生に、椅子を失くした」(「港市の秋」)とか、「ホラホラ、これが僕の骨だ」(「骨」)とか、すでに死後にいて、生前の自分を懐かしんでいるような詩をいくつも残していて、それは向こうがわからの逆光とでもいうように、まばゆい煌きを、現在を生きている私たちにまで投げかけています。ところで今年は中也の生誕110年/没後80年のメモリアルイヤー。
さまざまな企画やイベントが目白押しですが、今年一月にNHK BSプレミアムで放映された「朗読屋」という、中也の詩をモチーフにしたドラマ(脚本は「かもめ食堂」「めがね」の荻上直子さん)、私も昨年中也の名を冠した詩の賞をいただいたご縁でちらりと出演させていただいたのですが、その劇中やPR番組で、主演の吉岡秀隆さんはじめ、市原悦子さんや緒川たまきさんらが中也の詩を朗読するのを聴いて、80年以上前に書かれた詩が、「今」の詩として新たに立ち上がるのを感じました。
中也自身、自分の書いた詩を、友人や恋人に朗読して聞かせることがしばしばあったそうですが、詩というのは「うた」で、音楽でもあるので、声に出されることで、時空を超えて何度でも再生されるのです ...