クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に生かしているのか。第94回目は、イラストレーターのオオクボリュウさんに、仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『Picasso Paints a Portrait』
David Douglas Duncan(著)
ピカソのアトリエでの制作風景を連続的に写した写真集。撮影は、LIFE誌の専属カメラマンで、普段からピカソと交流のあったデイヴィッド・ダグラス・ダンカン(調べたら、現在100歳とのこと)。この本は、小さい頃から実家の棚にあったものを、ぼくが学校を卒業して家を出る時に譲り受けました(勝手に持ってきた)。ピカソというと、アートの代名詞で、今でも作品の落札額やスキャンダルが際立って語られますが、ここに収められているピカソはなんとも自然な佇まいで、僕らと同じように絵の具を混ぜて、キャンバスに筆を置き、時に絵から離れて、推敲を重ねています。
自分が絵を仕事にしてからようやく5年経ちましたが、社会の中で広告や雑誌に携わったりしていると、誰のためでもなく、ただ衝動的に「絵を描く」ことは、よほど意識して行動しない限りありません。もちろんピカソが子供のように無垢に絵を描いているとは思っていませんが、写真のピカソには欲望や卑しい心が全く感じられません。年老いたピカソの後ろ姿は、絵を描くのを心から楽しんでいるように見えます。絵について考えてるとき、その後ろ姿をたまに思い出します。
『タイガーブックス』
手塚治虫(著)
(講談社)
ぼくは手塚治虫に育てられたと言っても過言ではありません。本当は全部の漫画について話したいくらいですが、今回は短編集「タイガーブックス」について書きます ...