メディア、コミュニケーションの手法が多様化する現在、以前にもまして「チームの力」が求められてきているように感じます。1人のクリエイターの企画やアイデアがどんなに優れていたとしても、それをたった1人で形にして世に送り出していくことは難しい。また日々生まれてくる課題や変化に随時対応していくためにも、1人ではなく、チームで課題に当たることが有効だと考えます。企画をより進化・深化させ、アイデアを広げていくことができるクリエイティブチームが、いまいろいろなシーンで求められています。本特集では、広告のみならず、プロダクト、空間、展覧会、スタートアップ企業など、さまざまな形のプロジェクトを進めるチームを取材しました。それぞれが考える理想のチームのあり方、座組み、そして仕事の進め方とは?そこからどんなクリエイティブが生まれているのか、そのプロセスを追いました。
カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルチタニウム部門グランプリ、D&ADブラックペンシル最高賞ほか、国内外で数々の賞を獲得し、高い評価を得た本田技研工業(以下 ホンダ)インターナビ「Sound of Honda /Ayrton Senna 1989」。この企画のみならず、「dots now」「RoadMovies」など、同社とともに唯一無二のクリエイティブをつくりあげてきたのが、電通菅野薫さんを中心とした、この5人である。
大きな実績を持たない5人がチームに
インターナビのプロジェクトを推進してきたチームメンバーはクリエーティブ・テクノロジスト 菅野薫さんをはじめ、コピーライター 保持壮太郎さん、キリーロバ ナージャさん、アートディレクター 大来優さん、そしてクリエーティブ・テクノロジスト 米澤香子さん。実はそれぞれ部署も異なり、会社の組織上は同じチームではない。「戦略的に集めた人材ではなく、ゆるく集まったチーム。2011年に自然とチームらしきものになったとき、誰一人として仕事での大きな実績は持っていなかった」と、菅野さんは話す。
ホンダのプロジェクトには当初、菅野さんが一人で参加していた。当時、同社今井武さん(役員待遇・当時)はオリエン、プレゼンを経て企画を進めるというスタイルではなく、参加メンバーが一緒にアイデアを出して一緒にものをつくり出していくというフレキシブルな共創の場を構想していた。そこに菅野さんが連れていったのが、入社2年目を迎える直前の米澤さんだ。「大学での研究で人と猫のインタラクションプラットフォームを開発した面白い子がいる。場が和めばという軽い感じで連れていったところ、テクノロジーを使って新しいやり方を一緒につくりましょうと場が盛り上がって、すぐ巻き込みました」。
具体的に進めていくにあたって、菅野さんがまず声をかけたのはナージャさん。ロシア出身のコピーライターで、テクノロジー領域にも明るいという希有な存在だ。「プログラマーのような専門家ではないけれど、テクノロジーやグローバルな感覚を持つナージャは仕事を進める上で自分との相性がよかった」。そして、ナージャさんが推薦したのが、仲の良かった大来さんと先輩の保持さんだ。当時、リーダー的な立場の菅野さんは入社9年目。CDとしての仕事は初めてだった。他のメンバーは若く、菅野さんは保持さん、大来さんとはほぼ初対面。デジタル領域のキャンペーンプランニングもほとんど経験がない2人だったが「これまでにはない新しいつくり方でつくりたい」と考えていたホンダがこのメンバーを受け入れてくれた。「いま思い返せば、クライアントもよく不安にならなかったな、と(笑)」(菅野さん)。だが、それが奏功した。「誰一人として先入観を持たずに仕事に参加できたし、上がいない分、自分たちが考えて進めていかなければ、という意識が自然に芽生えたように思います」(菅野さん)。
プレゼンではなく、シェアする
通常の広告キャンペーンとは進め方が違い …