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米国PRのパラダイムシフト

オバマ大統領の話はなぜ聞き手の魂を動かす?人を動かすコミュニケーションとは

岡本純子(コミュニケーションストラテジスト)

新聞記者、PR会社を経て活動する岡本純子氏によるグローバルトレンドのレポート。PRの現場で起きているパラダイムシフトを解説していきます。

オバマ大統領を支えるスピーチライターは2人。海外訪問の際のスピーチはベン・ローズ氏が担当し、国内向けのスピーチはコーディー・キーナン氏が手がける。

どうすれば聞き手や読み手の心に残るコミュニケーションができるのか。PRやマーケティングのプロフェッショナルとして頭を悩ませる読者は少なくないだろう。今回は、スピーチやプレゼンテーションのプロとして欧米で活躍する「スピーチライター」に焦点を当て、彼らの「奥義」の一端をご紹介したい。コミュニケーションの匠の技はエグゼクティブのスピーチ原稿作成からプレゼンづくりや企画立案まで、多くの場面で役立つこと間違いなしだ。

オバマ大統領を影で支える2人

オバマ大統領が5月、広島平和記念資料館の前で行ったスピーチをご覧になった方もいるかもしれない。平和への希求と核廃絶への思いを格調高くうたった美しい抒情詩のようなスピーチだった。この原稿を書いたのは、38歳のベン・ローズ大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)。オバマ大統領の側近中の側近で、もともとはニューヨーク大学の修士課程に在籍し、作家を目指す「文学青年」だった。このスピーチはローズ氏が起草し、関係者がチェックをした上で、さらにローズ氏が推敲。オバマ氏が最終的に手を入れる形で仕上げられた。「優れたストーリーテラー」と言われるローズ氏は「どこから僕で、どこからがオバマか分からない」というほど、大統領と一心同体の存在だ。

ローズ氏がオバマ氏の海外訪問の際のスピーチを担当するのに対し、国内向けのスピーチを手がけるのは30代半ばのコーディー・キーナン氏。ハーバード・ケネディスクール出身のこちらもエリートだ。キーナン氏いわく、スピーチを書く過程は大学院の論文作成のようなものだという。大量のリサーチと幾晩もの徹夜で原稿を書き上げると、それを大統領が細かくチェックをし、直しを入れる。書き手と話し手の緊密なコラボレーションの結果が魂を動かすスピーチになるというわけだ。キーナン氏の前任のジョン・ファブロー氏は、大統領自身に「(自分の)マインドリーダー」と言わしめた存在で、20代後半で、オバマ氏のスピーチライターとなった。

オバマ氏夫人のミシェル氏にも専属のスピーチライターがついている。ハーバード・ロースクール卒業のセーラ・ハーウィッツ氏(38歳)。7年間ずっと側について、ミシェル氏の一言一句を書き上げてきた。『ワシントン・ポスト』によると、「彼女の声や考えが頭に染みつき、彼女が何を言いたいのかが分かる」存在だ。

どのスピーチライターも20代から30代と若い。例えば、オバマ氏の就任の年のスピーチの数は400以上と、膨大な数のスピーチを書かなければならないばかりでなく、スピーチによっては15~20回ほど書き直すこともある。大きな大会でのスピーチから、学校や地域コミュニティ訪問などの小さな挨拶に至るまで、その数は数百を超える。スピーチを次から次へと量産するため、徹夜も当たり前という厳しい労働環境だ。若い人が多いのにはこういう理由もある。

オバマ大統領の夫人であるミシェル氏のスピーチを支えるのは専属スピーチライターのセーラ・ハーウィッツ氏。

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日本ではあまり一般的ではないスピーチライターだが …

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