「編集」の仕事は、時代から取り残された古い仕事。そんなふうに思っていませんか? 実は世界を見わたすと、出版の枠組みを超え、ジャンルを超えてメディアと人をつなぐ、情報新時代のキーパーソンになりつつあります。新しいタイプのメディアを創造し、メディアを根底から変えようとする人たちも現れています。企業コミュニケーションの領域においても、従来クリエイティブディレクターが担っていたコンテンツマーケティングを、編集者が担うケースも増えています。ソーシャルメディアの広がりやメディアの技術革新などの理由から、企業コミュニケーションも一方的な情報発信では見向きもされなくなってきました。生活者が共感を持てるブランドストーリー、あるいはブランドを体験できるコンテンツが求められてきています。そこで問われるスキルが「編集」です。さまざまなルートから独自の情報を集める収集力、膨大な情報から有益な情報を取捨選択する目利き(審美眼)、そして、それらをつなぎ生活者が求める形に加工・再構築する技術とセンス……。
今回のデザイン会議では、「編集」を駆使して、新しい価値を生み出しているブックディレクターの幅允孝さん、BEAMSクリエイティブディレクターの南馬越一義さん、アクシス取締役の宮崎光弘さんと、情報新時代のメディア、コンテンツのつくり方、その見せ方・発信の仕方などを考えます。
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情報収集:知ることより、感じることのほうが大切
南馬越 長年BEAMSのバイヤーを続けてきました。数多い海外ブランドの雑貨や洋服の中から日本で取り扱うものを選びますが、情報の集め方に明確な方法論を持っているわけではないんです。BEAMSの場合はアメリカが多いので、たとえばニューヨーク、あるいはロサンゼルスに行き、実際に街を歩きます。そこで情報を持っていそうな人がいたら、声をかけて話を聞く。自らの足で生の情報をとってくることが多いです。インターネットから情報を集めることはほとんどありませんね。
幅 僕も足を使うガテン系タイプです。SNSもやっていないくらいで。そもそも情報を得ようと思っていないんです。北大路魯山人の「坐辺師友」とまでは達観できないですが、日々、買い物や食事で外に出るだけでもさまざまな出来事に出くわします。その偶然をどれだけ面白がれるか。そういう意味で、新聞は読みます。知らない事象に出くわすことが多いので。
宮崎 三浦梅園も、「枯れ木に花咲くを驚くより、生木に花咲くを驚け」といっています。とても好きな言葉です。先日まで21_21 DESIGN SIGHTで開催されていた「コメ展」の企画に携わっていたのですが、これは、まさにいろいろな人が驚いた日常を集めたものでした。
南馬越 東京ミッドタウンで開いていたお米の展覧会ですよね。
宮崎 はい。デザイナーの佐藤卓さん、文化人類学者の竹村真一さん、フードディレクターの奥村文絵さん、僕の4人が中心となって企画しました。コメと一言でいっても、植物の稲、日々食べるご飯、餅やおこわ、日本酒や玄米茶もコメなので、竹村真一さんいわく、「既知の未知化」がテーマでした。
幅 デザインのエキシビションを超えて、自然科学の要素あり、日本の歴史あり、多角的な展覧会で、すばらしかったですね。闇雲に情報を集めるのではなく、一つのものを多角的な視点で捉えるのも「情報収集」である、ということですね。僕はティボー・カルマンが大好きなんですよ。トーキング・ヘッズのアートワークが有名ですが、ベネトンの雑誌「COLORS」の創刊号から13号までアートディレクター兼編集長をやっていました。毎号ワンテーマを、わかりやすく親切に、さまざまな方向から切り込んでいて、コメ展にも似た感覚を持ちました。
宮崎 うれしいです。情報の話でもう一つ ...
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