対外的な発信を強化するために、その前段階として従業員のブランド理解を深めることが重要だ。そのメカニズムと効果について、企業のインターナルコミュニケーション戦略を支援する、産業編集センターの相山大輔氏が解説する。
従業員エンゲージメントは企業の競争力の根源
最近、当社に相談されるインターナルコミュニケーションの課題の多くに、従業員のエンゲージメントに関する悩みが必ずと言っていいほど含まれている。エンゲージメントと聞くと、人的資本経営を謳われる今時ならではの話題であって、ブランドとは関係ないかと思う向きもあるだろう。もちろん離職率の問題からエンゲージメント向上を目論む企業もある。しかし最近は、エンゲージメント自体が企業の競争力の根源であるという見方が一般的で、その下降を食い止めたいという要望が多い。
実際、各企業でエンゲージメントの成分を分析していくと、経営トップの人柄だったり、仕事の専門性だったり、企業によって構成要素は違う。一方で会社への愛着、誇り、自信といったものが、開発力や品質向上の大きな原動力になっていることはいずれの企業でも共通しており、すなわちブランド力に直結する問題でもあるのだ。
当然だが、ブランドはロゴや広告、ましてやステートメントだけで成り立つものではない。顧客は、ブランドの魅力を、実際に体験する製品やサービス、広報・宣伝、SNS上のコミュニケーションなどを通じて感じ取る。そして、それら活動を創り上げているのは、社員一人ひとりの日々の業務の積み重ねに他ならない。
そのため、本来ブランディングでは、まずは社員へのコミュニケーションから始めるのが定石だ。社員を巻き込みながら、わかりやすく納得度の高いブランド像を作り、広く行動化を促してアウトプットしていく。
例えば、企業の存在理由であるパーパスを定義し、それを実現するために従業員が優先すべき価値観などを定め、実践する。製品やサービスを開発する者、広告を作る者、顧客と触れ合う者、関わる従業員すべてが理解実行し、あらゆるタッチポイントでブランドを発露する。これが基本的なメカニズムだ【図1】。
また近年は、見せかけのブランドはすぐに見破られてしまう。社外へ伝えているブランドと社内が実践しているブランドに、矛盾は許されない。外には顧客第一と伝えていて、社内では売上獲得のために顧客を出し抜くようなことを推奨している企業は社会から淘汰されてしまう。
特に最近は、SNSを通じて、社内事情が漏れ伝わる事案が頻発している。企業としては、常に表裏のない活動が求められ、嘘をつけば厳しい断罪が待っている。つまり現在の企業ブランドでは、内実も伴っ…