コロナによるパンデミックは、一定の終息となった今でも少なからず人々の生活様式や日常の行動を変えた。では、コロナ後の世界における「ブランドとの出会い方」「ブランド体験の在り方」はどうなるのだろうか。アクセンチュアの野田慎太郎氏が解説する。
一義的に捉えるのではなくブランドの意味自体から考える
この2、3年の生活様式の変化に伴い、プロダクトやサービスを利用する場所、人、時間は変わりました。例えば、自宅にいる時間が増えたからこそ購入したエスプレッソマシーンはリモートワークや動画鑑賞の友となり、便利でユニークな調理器具は家族との時間に新しい切り口をもたらしました。つまりブランド体験に変化があったということであり、ブランドとの出会い方、出会う時に重視する価値観にも変化があったことになります。
しかし、全ての商材やサービスが『ブランド』である必要があるのかと言えば、そうではありません。例えば、徹底した利便性や機能に特化し、人々の顕在的な課題を解決する商材やサービスは必ずしもブランドとして認知してもらう必要はなく、その利便性や機能で選ばれれば良いのです。だからこそ、いかにその有用性を伝えるか、その利便性を磨き続けられるかが重要です。
一方で、情緒的な価値や体験を提供する商材やサービスは、今まで以上に「人々の感情面において意味のあるブランド」として認知してもらう必要があります。だからこそ、そうしたブランドは人それぞれの「感情的に意味がある行動(リチュアル)」に寄り添う体験の提供が重要です。そしてこの感情や行動は、不安定な世の中で目まぐるしく変化するもの。企業は、ブランドを一義的に捉えるのではなく、人々にどのような体験や価値を提供したいのか、ブランドの存在意義を問い直す必要に迫られています。
消費の瞬間だけでなく、「ライフ」観点で顧客を捉える
ブランドである、ないに関係なく、「顧客に何らかの体験と価値を提供し対価を得る」という構造は同じです。さてこの時「顧客」について、「自分たちの商品やサービスを利用してくれる人」という意味合いだけを強めると、顧客を消費者としての側面だけで捉えがちになります。
例えば、顧客であるひとりの女性がいたとします。30代女性で一児の母、会社役員で、好きなアイドルの推し活にハマる人でもあります。企業・ブランドは、顧客のこうした多面性を捉え、その上でどの側面に対して意味のあるブランドになるのか、具体的な体験や価値をどの様な手法で届けるのかを考えなくてはいけないのです。
多面性を捉えるには自社で保有するデモグラフィック情報や購買金額だけでは不十分です。アプリやECサイトなど様々な接点で取得...