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SNS時代 新しい「ブランド」のつくられ方

無意識・無目的のザッピングのなかでブランドはどう形成されるのか?

宮前政志氏(電通)

電通は2023年3月、情報回遊時代の購買行動モデルとして新たに「SEAMS®」を提唱した。従来のAttentionから始まらない、スマートフォンを起点としたデジタル行動は、購買行動にどのような影響を与えるのか。SEAMSの概念と、それを踏まえたブランドづくりの在り方について宮前政志氏が解説する。

目的のない「情報回遊」が入口 購買行動モデルSEAMS

インターネットの登場以降、爆発的に増える情報の流通量に比して、人々の情報の消費量は大きく変化をしていない。限られた24時間という時間のなかで、いかに消費者のアテンションを獲得できるか、情報接点をつくれるか、時間の争奪戦が激化している。

さらに、このアテンション、接点の獲得競争を難しくしているのが、消費者がメディアを通じて情報に接している時、多くの場合が無目的で無意識の習慣によるザッピング行動になっていること。かつてテレビは受動的、ネットは能動的に接触すると言われてきたが、果たしてネットへの接触は今も能動的なのだろうか。

ザッピングに使用されるツールがリモコンからスマホへ変化しただけとは言えないだろうか。

もちろん、今も目的のあるスマホ行動も存在する。私たちは目的のある行動【検索Search】に対し、目的のないスマホ行動を【回遊Surf】と定義した。ここで言うスマホ行動とは、動画、ニュースやSNSなどインターネット接続を伴う情報接触の一連の行動を指す。

調査するとスマホ行動は若い人ほどサーチよりサーフ時間の比率が高くなることがわかった。そしてこの、目的のない情報回遊Surfを入口とした購買行動モデルが「SEAMS®」だ。

【回遊Surf】→【遭遇Encounter】→【受容Accept】→【高揚Motivation】→【共有Share】をつなげたSEAMS購買は、下記のような流れになる。

何となくスマホを【回遊Surf】している時、フォロー中のインフルエンサーやリアルで親しい「リア友」、SNSコミュニティの「デジ友」が投稿した商品実感や自分の価値観に合うとアルゴリズムが推奨する商品広告に【遭遇Encounter】する。

その際、検索による信頼ではなく「あの人が語る」人起点の信頼によって【受容Accept】し、購買が起こる。検索による信頼は自分の時間を消費して自分で購買を判断するのに対し、人起点の信頼は時間消費せずに他人任せなので失敗リスクの高い冒険的な買い物となる。

そのため商品が届いた際に、期待通り、もしくは期待以上だった時に冒険に勝利したかのような感動的な強い【高揚Motivation】と、その商品を体験して自分もブランドの一員になれたといった持続的な長い【高揚Motivation】で、商品関与が高まりやすい。

近年のSNSはセルフブランディングの場として共有ハードルが上昇しており、本当にモチベーションを感じた商品だけが共有拡散される状況になっている。誰でも知っている商品よりも知る人ぞ知る商品の方が情報発信価値は高く、強く長い【高揚Motivation】を感じた商品がSNSコミュニティのデジ友やリア友へ【共有Share】される。

そしてSEAMS購買はSNSのコミュニティが持つ5つの特性によって自走する【図表1】。ひとつ目は【同調現象=Conformity】、自分の見解と多少の違和感があっても、リーダーや集団との良好な関係のためなら意見を合わせて賛同する特性だ。何となく【回遊】している時「このシャンプーAがいい」という知人の発信に対し、良好な関係のためにとりあえずイイねと【賛同】する。

図表1 SEAMSモデルとSNSコミュニティの特性

2つ目は【情報被膜による情報偏向=Filter Bubble】。検索やクリック履歴に基づいてアルゴリズムが本人の価値観と合う好ましい情報ばかり作為的に表示するので、異なる価値観の情報は遮断されやすい特性である。広告として頻繁に【遭遇】するシャンプーAが、すでに商品の使用実感を発信した知人の投稿に自分がイイねと反応していたあのシャンプーAと同一商品で【一致】していることに気づき、「このシャンプーAが好きかも」と思い始める。

3つ目は【集団極性化=Cyber Cascade】、反対意見に出合わずに類似価値観がつながりやすいので、集団全体の合意形成がひとつの刺激的な意見に流され先鋭化しやすい特性だ。世間の常識からズレていることが意識されず、刺激的な先鋭情報が選好されやすく「シャンプーAは新発想、新常識」だから【受容】され、面白そうだから【試行】される。

4つ目は【反響室現象=Echo Chamber】、類似価値観を持つ同志が集いやすい場は自分の考えが肯定されて増幅されやすいため正解だと思いこみやすい特性である。自分がシャンプーAを試した感想を発信すると、「イイね!凄い!神!」という肯定的な意見が【反響】して増幅されるので、自分自身も「やっぱりシャンプーAはいい」正解だと思い【高揚】する。

5つ目は【所属集団贔屓=In-group Bias】、所属外集団には敵対的で辛口な一方、所属集団に対しては肯定的で好意的な態度を示して優遇する特性である。コミュニティ内で肯定的に反響された「シャンプーAは絶対凄い!」と【優遇】しロイヤリティが高まり、競合のシャンプーBには辛口になりやすい。...

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