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マーケティングと企業変革

人を動かすマーケターの力が企業のコアスキルになる「ピープル・ファースト」の時代が来た

矢野健一氏(D&Fクリエイツ)

「マーケティングはもはや、いち部署が持つべき能力ではなく、全社で共有すべき能力である」。近著『ピープル・ファースト戦略』(宣伝会議刊)内でそう主張する経営・マーケティングコンサルタントの矢野健一氏が、現代の企業がマーケティングに取り組むべき意義を解説する。

D&Fクリエイツ
代表
矢野健一氏

新規事業にとっての壁は長年で培われた“常識”への固執?

昨今のコロナ禍を経験し、多くの企業が事業の変革期を迎えています。

その中で既存事業の発展に見切りをつけ、既存事業は現状のまま保持しながらも新規事業に企業の軸足を移して再建を図ろうとしている企業は少なくありません。私のクライアント企業においても、コスト高、競争激化の波を受け、薄利多売のビジネスモデルの限界を感じて新規事業への変革に取り組んでいる最中です。

企業のライフサイクルを創業期、成長期、成熟期、衰退期とした時に、新規事業は創業期に戻ることを意味します。企業のライフサイクルは、まず事業を創業し、成功事例を積み重ねて成長を続けたのち、事業が成熟してくるにつれて利益幅を求めて効率化を推進していきます。

この成熟期の中での人事評価は、いかに効率よく成果を上げるのかにフォーカスが当たります。それは次第に企業が設定した手順やマニュアル化されたオペレーションを最適に遂行できるかという評価軸に代わり、ベテランと呼ばれる従業員や社歴が幅を利かせるようになります。新人は先輩の背中を追いかけながら早く同じようなことができるようになろうと努力し、新しい発想をぶつけ合いながら進めるよりも、いかにスムーズに事が運ぶのかに注力されていきます。

この環境下で再び創業期に戻るということは何を意味するのかをちょっと考えてみてください。創業期は本来属人的であり、効率的な手順もマニュアルも未だ開発されていません。効率化どころかどんどん手を動かしていかなければ、物事を進めることすらできませんし、そもそも正解が何かすらわかりません。同じ創業期でも価値観が全く異なるのです。

つまり、新規事業を始める時は成熟期で凝り固まった価値観をリセットするところから始めないといけないという点が、元来の創業期と大きく異なります。それは、成熟期を安定的に長く過ごした企業であればあるほど従業員に染み付いた価値観のギャップが大きく、より深刻な問題となります。

今評価されていることを自ら否定して新しいことに挑戦しようという人はなかなかいません。むしろ、なぜこんなことをしなければならないのかという、これまでの常識から培われた心理的な高い壁が新規事業の足を引っ張ることがほとんどです。

新規事業の最も難しいところは、人々に「なぜ自分がやる必要があるのか?」と、自分ごと化してもらうことだと言っても過言ではありません。この常識の壁を壊さない限り、どんなにきれいにつくり上げられた事業戦略やマーケティング施策も消費者にフルパワーで届くことはないでしょう。

もっと言うと、実はそういう常識の壁が業績衰退自体のけん引役となっていることがほとんどです。よく言われるのが...

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