これまでの資産を活かすのか、それともゼロから新しくスタートを切るのか?大手企業からスピンアウトして新会社を立ち上げるにあたり、決断すべきことは多岐にわたる。新たな事業開発に挑む際に求められる「マーケティングの力」について、3社の代表が語り合う。

パッチワークキルト
代表取締役社長
藤井 弾氏
パッチワークキルト

パッチワークキルトは、ハウス食品グループの新規事業の提供価値を検証するため2022年10月に誕生。現在は、冷凍幼児食のEC事業「Kidslation」と保育園設置の自動販売機による惣菜販売事業「タスミィ」の2つのプロジェクトの事業化に向けて動いている。

SEE THE SUN
代表取締役CEO
金丸美樹氏
SEE THE SUN

森永製菓のコーポレートベンチャーとして設立したSEE THE SUNでは、「テーブルを創るすべての人を幸せに」をミッションに、「食」を取り巻く社会課題解決に取り組んでいる。

ambie
代表取締役
三原良太氏
ambie

耳をふさがない“ながら聴き”イヤホン「ambie sound earcuffs」の開発、製造、販売を行っているambie。ソニーから独立した同社は、「日常を彩る」という従来のイヤホンとは異なる価値を発信している。
なぜ「新会社」を設立したのか?3名が語る、立ち上げ時の背景
──代表を務める会社の事業内容について教えてください。
三原:ambieは2017年に設立し、「人と音の、関わり方を変えていく。」をテーマにオーディオ製品やデジタルコンテンツの企画、開発、製造、販売を行っている企業です。ソニーの新規事業創出プログラムを起源とし、現在は外部のベンチャーキャピタルも参画するジョイントベンチャーとして経営しています。
藤井:パッチワークキルトはハウス食品グループ本社の子会社として昨年10月に設立した、グループ内新規事業の実証を受託する企業です。元々私は研究開発の出身なのですが、7年前にハウス食品グループの新規事業担当になりました。
現在パッチワークキルトでは、グループ内の新規事業創出プログラムから生まれた2つの事業の実証を進めています。ひとつ目のプロジェクトは「幼児食期」に特化した冷凍食品の開発と販売を行う「Kidslation(キッズレーション)」、もうひとつが、管理栄養士監修による「パウチ入り惣菜」を保育園に設置した自動販売機で販売する「タスミィ」です。
金丸:森永製菓のコーポレートベンチャーとして2017年に設立したのがSEE THE SUNです。当社では、「“食”に関する社会課題を解決したい」という思いのもと、食にかかわる様々なチャレンジを応援する仕掛けや、つくり手同士の交流の場など「つくる人と食べる人がつながる場」を創出しています。私は森永製菓の社内で新規事業担当をしていたのですが、その時に社長に個人プロジェクトを提案したところ「別会社でやってもいいんじゃないか」との提案を受け、コーポレートベンチャーを立ち上げることになりました。
──事業をスタートするにあたり、なぜ「新会社設立」という方法をとったのですか?
三原:私はもともとソニーのエンジニアとして商品開発を担当していたのですが、その中で、外の音を聞きながら音楽や通話も同時に楽しめる「耳をふさがないイヤホン『ambie sound earcuffs』」を開発しました。「ambie sound earcuffs」は、耳をふさがずに「ながら聴き」をすることで、「音楽による、より上質な日常」を提供できるプロダクトです。
従来のイヤホンが提供するものが「良い音質」だとすれば、「ambie sound earcuffs」が提供するのは「良い日常」です。そうなると、“イヤホン”というカテゴリは同じでも、提供する価値やニーズがまったく異なり、マーケティング手法や販路など、すべてがソニーで実施していることとは変わってくるはず。そこを検証しながら事業を回していく上で、アジャイル的な動きがしやすいジョイントベンチャーを立ち上げることにしました。
金丸:たしかに、ジョイントベンチャーのように“出島”の形をとることで、意思決定に「速さ」が生まれると思います。また、私は「社会・世の中に必要なことをしたい、そしてそれを仕事にしたい」という優先順位で考えているのですが、大企業には大きな組織としての優先順位がある。そういう意味では、全力で社会と向き合え、市場との対話ができる点も、「外へ出る」ことの意味なのかなと思いますね。
藤井:私が感じるのは、ハウス食品もソニーさんと同じくメーカーなのですが、メーカーの中にいる人はマーケティングの4Pである“プロダクト”に注力する傾向があるように感じます。そうなると、他が見えなくなってしまうことも多々あって⋯。
先ほど、三原さんがおっしゃっていたことにすごく共感したんですが、「つくっているプロダクトは大きく変えなくても、提供するシーンを変える、顧客を変えることで市場をつくる」といったことは今の時代、非常に重要だと感じます。でも、プロダクトの開発に集中していると、そこに視野が及ばなくなる。そのような...