Netflix、Amazon Prime Videoをはじめとする広告無しメディア隆盛期、コンテンツへの興味の高まりに反比例するかのように広告に対するネガティブな意見が見られるようになっている。この課題を広告はどのように解決していけばよいのか。世界の革新的事例をもとにSTORIES®の鈴木智也氏が解説する。

STORIES®合同会社/
STORIES®INTERNATIONAL,INC.
CEO
鈴木智也氏
博報堂・博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所等を経て2011年博報堂DYグループ等の出資で東京・LAに拠点を持つクリエイティブ・ブティック「STORIES®」を設立。2017年カンヌライオンズ・ブランデッドエンターテイメント部門審査員。2018年Spikes Asia審査員。『The Art of Branded Entertainment』(共著 英Peter Owen出版)。『ブランデッドエンターテイメント:お金を払ってでも見たい広告』(共著・訳・監修、宣伝会議出版)。
広告無しメディア時代と生活者主導メディア環境の到来
「お父さん、広告はなくさないとダメだよ」
「なぜ?」
「だって、うっとうしいからだよ」
MINI、Adobe、Corona等を顧客に持つ、アメリカの広告会社、Pereira O'Dellの共同創設者、P Jペレイラの11歳の息子がP Jに言い放った言葉です(『ブランデッドエンターテイメント』より)。
「広告は避けられるなら、避けて、コンテンツだけを楽しみたい」。広告に携わる私たち自身がビジネスの場では公には口にしない、しかし生活者の立場になった時のインサイト(潜在的心理)なのかもしれません。私自身も「広告?ウザいから、いつもスキップしているよ」と何度も言われてきました。
しかし私は、2005年頃からメディア環境変化を追いかける中で、オンライン化による大きな変化の兆候を感じた時、「上等だ、ワクワクするチャンスが来た!」と常に感じてきました。広告とコンテンツの間に立ち塞がっていた分厚い壁を壊し、新しいコミュニケーションの形を開拓するチャンスが来たと感じたからです。
決められた枠を買い、決められたフォーマットのクリエイティブをつくるというルーティンの商売から、常に新しいアイデアを生み出し、一から様々なプレイヤーと交渉してプロジェクトを企画し、実現していく機会が数多く生まれています。新しいものを生み出すにはハードルもありますが、アイデア、ストーリー、エンターテイメントの力で課題を解決するコミュニケーションを創っていくのは、広告業界の私たちにとって最も楽しいことなのではないかと感じています。
ここ数年での最も大きなメディア環境変化は、生活者がお金を払って広告を避けられるプラットフォームの拡大です。世界中でNetflixやSpotifyなどの有料・広告無しオプションが用意されたコンテンツ配信サービスが加入者と接触時間を伸ばしているのは、コンテンツの質と量もさることながら、広告でコンテンツ視聴を遮られないことが要因ではないでしょうか。
ブランド・広告産業に属する私たちにとって脅威的な問題は、例えば広告無しサービスでコンテンツを10時間一気見した生活者は、その間広告に一切触れていないという事実です。広告の有無を含めて、ドラマ・バラエティー・映画・音楽・舞台・ライブ・テーマパーク・ニュース・動画・写真、どのコンテンツをどのプラットフォームからどのタイミングで視聴・体験するのかを決めるのはすべて生活者なのです。
つまりブランドの競争相手は、もはや競合だけではなく生活者の前にある、あらゆる情報・コンテンツだと言える状況です。
もちろん広告ありのプラットフォームにも依然として大きな需要と影響力があります。ブランドやサービスのターゲットがこれらのメディアの広告枠を買うだけで十分にリーチし、説得し、課題が十分に解決できるということであれば、従来通りのコミュニケーション設計で良いかもしれません。Netflixが広告付きプランを投入することも発表されていますが、現実には従来の広告だけではリーチが難しいターゲットは増加しており、そして...