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過熱する、自治体プロモーション

インバウンドマーケティングを頑張る地域の取り組みと課題

インバウンドにっぽん 代表取締役 小野秀一郎

「2020 TOKYO」に向け、多くの日本企業が取り組むインバウンド戦略だが、観光誘客を促進したい自治体や地域にとっても他人事ではない。訪日外国人観光客を取り込むための、温泉地の取り組み先進事例を追う。

日本にしかない本物の「ニッポン」に浸りたい、そんな需要が外国人観光客のリピーター層に広がっている。外国人客で賑わう旅館やホテルの事例は増えてきたが、最近は「地域としてインバウンドで活性できているかどうか」が問われる新たな段階に入った。点ではなく面として一体となり、インターネットを最大限に活用して海外からの個人旅行者を集客し、地域を活性した3つの事例を紹介する。

1.加賀白山海外誘客推進協議会

インターネットを駆使し、個人の外国人旅行者へ情報発信をして地域の活性へつなげている事例が現れ始めている。石川県の南西に位置する加賀四湯(山代温泉、山中温泉、片山津温泉、粟津温泉)、および加賀市と白山市の観光事業者や小松空港などで構成される「加賀白山海外誘客推進協議会」は、2010年に多言語のWebサイトを立ち上げ、北陸の観光、食、イベントの情報を海外へ発信し続けている。協議会のサイト(以下、加賀白山サイト)は、開設当初から日本語版はなく、英語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語の4言語で運営されており、毎年サイトの内容を更新するだけでなく、訪日旅行を検討している潜在的な外国人客へサイトの存在を知らしめるべく、プロモーションに注力した。

協議会により相談を受けた筆者が提案したマーケティング策は次の通り。海外向け観光情報サイトの外国人記者を招聘、Googleでのリスティング、中国のSNS・新浪微博(シナウェイボー)での投稿、アジア各国の検索エンジンを活用したネット上のプロモーションなど。小粒な施策を地道に打ち出し続けている。

多言語サイトを開設後から2013年まで、アクセス数は目に見えるような伸びはなかったが、2014年2月ぐらいから急激に伸び始め、前年同月比で3 ~ 5倍で推移した(8.3万PV)。2015年度、伸び率は低くなったものの前年同月比1.5~ 2倍と増え続けており、年間では14万PVに到達する見込みで、2016年度は30万PVを越えると予想している。

アクセスが増えた理由としては、次の3つが挙げられる。

(1)海外のGoogleでの自然検索結果で上位に表示。つまり、Googleに「ユーザーにとって役立つコンテンツ」と評価された。2014年よりGoogle.com(日本はGoogle.co.jp)で「ishikawa onsen」「kaga ryokan」などで検索した際に3位以内に表示されるようになった。

(2)北陸新幹線の開通

(3)中国、台湾、香港の春節時期の訪日需要が増加

(2)と(3)の事象は、あくまでも二次的な要因に過ぎないと筆者は見ている。

というのは、需要があっても検索結果で上位表示されなければ、そのWebサイトには到達しえないからだ。すなわち検索エンジンから一定の評価を受けるようWebサイトを育てた(1)の要因が大きい。数年前から地道にコツコツとWebサイトを更新・改良し、「土壌づくり」をしっかり行ったことによりサイトアクセスが安定増加するという「成長」を実現することができたのである。

加賀白山サイトの海外からのアクセス増加に呼応して、外国人宿泊者数が増加した中に、加賀白山地区にある温泉地の一つ「山代温泉」がある。2015年春に北陸新幹線が開通したことは記憶に新しい。その影響もあり山代温泉へは日本人客が増加しただけでなく、外国人向けのJR乗り放題パス、ジャパン・レール・パスを利用した外国人客が増加した。

山代温泉観光協会(安念義浩事務局長)によると、2013年には1万4000人台であったのが、2014年には前年比15%伸びて1万7000人、さらに2015年には12%伸びて2万人に迫る勢いを見せた。北陸への関心が高まり、金沢を拠点として石川県の東西へ周遊することを想定した旅行プランを立てるべく加賀白山サイトへアクセスし、山代温泉のことを知るきっかけを得たことも影響していると考えられる。山代温泉観光協会でも多言語サイトを数年前から開設し、ネット上での受け入れ体制を整えていたことも功を奏した。

北陸新幹線開通の効果で外国人客を含めた総宿泊者数が2014年の68万人から2015年は77万人へ急増した。そのなかで外国人宿泊比率はわずか2.5%ではあるが、この比率は高まりつつある。山代温泉における外国人宿泊者の国・地域別の内訳は台湾が最も多く、過去2年連続で1万1000人強と圧倒的な割合を占める。これは新幹線が延伸する前から、北陸の空の玄関口である小松空港の台湾便が安定した利用者数を確保してきていることに起因する。現在、週5便が小松と台北(ANAとエバー航空の共同運航)を行き来しており、上海便の4便、ソウル便の3便(2016年3月時点)よりも多い。一方で香港、中国、アメリカを含む北中南米、ヨーロッパが各1200人程度と4地域が全て前年対比約2倍となったことは特筆に値する。山代温泉観光協会では個人客の割合は60%ほどと見ており、これは全国データの比、個人客65:団体客35の比に近い。

一般論になるが、地方の観光事業者や自治体の大きな課題の一つとして、 …

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