ESG報告の温室効果ガス排出量や女性管理職比率などの数値情報の解釈基準は一律に存在しません。では開示情報からはどのような企業姿勢が読みとれるでしょうか。
ESGの言葉が使用されたのは、2006年、当時国連事務総長のコフィー・アナン氏が、PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)を提唱し、機関投資家の投資意思決定プロセスに、ESGへの考慮が盛り込まれたのがきっかけです。このPRIに、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2015年に署名したことにより、日本のESG投資拡大への後押しになりました。
『日本サステナブル投資白書2020』によると、わが国のESG投資残高は、約310兆円で、総運用資産に占めるESG投資の割合は51.6%と言われています。では、この数値の意味をどのように解釈すればいいでしょうか?ESG投資の普及に努め、2021年1月から国連事務総長特使に就任した水野弘道氏は、GPIFがESG投資を推進する意義に関して、次のように語っています。
「GPIFが保有しているのは公的資産です。競争相手を打ち負かす必要もないし、市場を上回る必要もない⋯(略)⋯超過リターンを確保するために、ESGは良い指標とはいえないと言う人もいます。ただ、⋯⋯私たちが関心をもっているのは超過リターンの確保ではありません。より関心があるのは、全体のシステムをより成長できるものにすることです。」*1
*1 レベッカ・ヘンダーソン(2020)『資本主義の再構築 公正で持続可能な世界をどう実現するか』日本経済新聞出版
水野氏が主張するように、ESG投資の目的は、金融の仕組みに環境・社会課題を...