顧客インセンティブのひとつであるポイントの活用。しかし、ただポイントを付与し、ポイント分の値引きができるという施策を実施しても、消費者の購買動機にはならず、利益だけを失う結果になる場合が多い。ここでは、値引き以外のポイントの役割とは何か、注視すべき点は何かを解説する。
「ポイントサービスの効果的な使い方」を考えるにあたり、ポイントサービスと値引きとの違いを明確にしておくことが重要です。
それを明確にするにあたり、「人間は得したと感じる喜びよりも、大きく損したと感じる痛みの方が大きい」という行動経済学で研究され、実証されているプロスペクト理論があることを忘れてはいけません。「値引き」は一旦下げると「参照価格」(人が実際感じる価格感)が下がり、値引きなしで購入した場合、「損した」と感じるという理論です。値引きは元に戻すと顧客離反を引き起こすため、値引きの慢性化や乱発に陥ってしまう。
一方、値を下げる(マイナス)のでなく、ポイントや特典物のように何かを追加で与える手法だと、プラスでもらえる・享受できるという「得したと感じる喜び」が生まれるというわけです。参照価格を下げることがないため、施策を半永続的に続けても害がないということになります。
1P=1円から使える問題点
さて、ポイントサービスにおいてよく見られるケースとして、ポイントサービスを1P=1円からの値引きのみで使っている例があります。
共通ポイント、スーパー、ドラッグなどを筆頭に、よく見かけるサービスで、使いやすく煩わしさがないため利便性の面では支持されますが、常習性が高くなりやすく、「今、何ポイント貯まっているか」に対する意識も低くなりがちです。ポイントを貯めて、貯まったポイントで今日はあれも買ってしまおう、という「買い増し効果」「ついで買い効果」を生みづらくなります。
ここでぜひ知っていただきたいのですが、「ポイントを貯める楽しみ」の効果を、学術的には「ポイントプレッシャー」といいます。過去の米国の研究では、ポイントカードや空港のマイレージプログラムで、ポイントプレッシャーによる利用頻度増の効果が確認されています。特典獲得閾値に累積ポイント数が近づくほど、心理的にプレッシャーがかかり、顧客の行動を加速させる効果が出るというわけです。
「もう少しで特典を獲得できる」という感情が来店促進へつながっているということなのです。これは、1ポイント=1円から値引きのみで使っているだけでは生まれない効果なのです。
ポイントに何を求めているのか?
消費者はポイントサービスに何を求めているのでしょうか?それを紐解くために、当社の独自調査をご紹介しましょう(図表1)。ここでわかるのは、消費者はポイントサービスに対して必ずしもお金としてみていないということです。ここでいう「楽しみ」はポイントを...