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デザインの見方

空間になじむ新しすぎない新しさ

西田剛史

「壁掛式CDプレーヤー」(無印良品)

深澤直人さんがデザインした「壁掛式CDプレーヤー」の存在を知ったのは、三菱鉛筆のインハウスデザイナーとして働き始めて9年ほど経った2000年ごろのこと。深澤さんがディレクターを務めるワークショップ「without thought」の展覧会でプロトタイプが発表され、それをWebで見かけました。その後、無印良品で販売されていることを知り、購入しました。

自宅のリビングの壁に設置してみると、以前からそこにあったかのように、インテリアに調和して驚きました。無駄のないミニマルなデザインで存在感があり、CDプレーヤーがひとつ設置されているだけで、その場が洗練された印象にもなる。オフホワイトの色合いや放射線状に配列された繊細なスピーカーグリル、角を丸くした四角い形状など、ディテールまで緻密にデザインされているからだと思います。

ユニークなのは、換気扇を彷彿させる形状で、本体から伸びる電源コードを下に引っ張るとスイッチのオン・オフができることが、直感的にわかります。むき出しのCDが回転し、風がそよぐように音楽が流れてくる「換気扇とCDプレイヤーの類似性」に着目したアプローチは、他に無い新しいものでした。当時は言語化できていませんでしたが、今あらためて考えると、“新しすぎない新しさ”が、この商品の魅力であり、ロングライフデザインのポイントなのだと思います。

この壁掛式CDプレーヤーが登場した当時、デザインは華やかさや高級感を際立たせる“装飾的な表現”が主流でした。それは文具業界でも同様で、私自身、商品単体で...

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