この連載の担当編集者から「ユニークな活動をしている方がいます」と紹介されたのが「ONDER DE LINDE」の植村遥さんと、久米希実さん。建築の一部を形づくっている布、大きな壁面を優美に覆う布など、ユニークなデザインを生み出している。ダイナミックでたおやかな世界に惹き込まれ、話を聞きに行った。
「やわらかい建築、建材のようなテキスタイル」はできないか
2人はオランダの大学で出会った。植村さんは建築を、久米さんはテキスタイルを専攻していた。デザインのことを話し込んでいく中で、「建築と布の間の領域をデザインしたい」と「ONDER DE LINDE(オンデルデリンデ)」を立ち上げたという。「やわらかい建築はできないか、逆に、建材となるようなテキスタイルはできないかという発想を、突き詰めようと考えました」。建築とテキスタイルは遠い存在ではないが、デザインの領域としては区分されている。
どちらも空間に関わっているものの、“建築はハード”で“テキスタイルはソフト”というイメージがなんとなくあった。逆に言えば「建築と布の間」は可能性を秘めた領域と言える。
仕事を見せてもらうと、2人の目指しているものが伝わってくる。たとえば、横浜にある「THE BEACH」という結婚式場の窓に配したカーテン(01,04)では、「風を受けてたわむ布の表情を活かそうとトライしました」。大きな壁面を彩る布は、静止した状態でもフォーマルで上品な風情をたたえているが、風に揺れて動くさまは心動かす風景に違いない。布でできているから、空間に動きをもたらすとともに、外と内を「つなぐ」役割を果たしている。
また、野村不動産のショールーム「PROUD Gallery Gotanda」内の商談スペースの間仕切りには、ドレープにアーチ状の穴が開いたカーテンをデザインした(02,06)。
繊細な布による仕切りは、堅牢な建材の仕切りに比べ、心理的な圧迫感が格段に少ない。透過性のあるドレープが形づくるアーチは、それだけでも美しいのだが、布を寄せるとなくなり、広げるとアーチができるようにしつらえてある。商談が始まったら「閉じた空間」をつくり、終わったら「開いた空間」にすることもできるし、スペースの広さに合わせ、空間を自在に仕切ることもできる。「つながりながら動線をつくることを想定しました」と言うが、人の心や心地に訴えかけるところまで...