街ゆく人の装いを見ていると、ヴィヴィッドなグリーンやピンクなど、艶やかなカラーが目につく。時代の空気に閉塞感があり、それを越えようとするエネルギーが働いているのかも──そんな折、矢後直規さんの仕事を目にする機会があり、時代を越えようとする何かが宿っていると感じ、話を聞いてみたいとインタビューをお願いした。
幼い頃は発明家になりたかった
猛暑の中、立ち現れた矢後さんは、すっとする空気をまとっている。言葉が平易で筋が通っている──やわらかい雰囲気にほだされ、まずはデザイナーになった経緯から話をうかがった。幼い頃は発明家になりたいと思っていたが、小学3年生の時、先生からグラフィックデザイナーという仕事があり、それになったらいいとアドバイスを受け、デザイナーになる道を選んだという。就職活動で博報堂を受けるにあたり、長嶋りかこさんと出会い、その仕事ぶりに強く惹かれた。
長嶋さんの持っている、背筋ののびやかさ、気風の良い心根、人と社会に対する温かい眼差し──私も以前から「チャーミングなキャラクターの持ち主」と仰ぎ見てきたので、出会いが素敵だったことはよくわかる。ところが、入社して長嶋さんのチームでないところに配属されてしまった。矢後さんはあきらめず、「手伝わせてください」と懇願し、所属チームの仕事をしながら、長嶋さんのアシスタントを務めるようになった。
忙しい日々が続いたが、それも含め「全てが勉強になりました」という。その後、博報堂のクリエイターが設立したSIX(博報堂グループ)に誘われ、メンバーとなり今に至っている。
名を上げた仕事のひとつは「ラフォーレ原宿」のグランバザールの広告だ。エレガントなヒールにショートパンツ姿の女性が、真紅のボーダーを越えようとしている。大きく振り上げた手と、前に踏み出した脚ののびやかさが、「越える」ことの心地良さを思い起こさせてくれる。「移り変わるファッションというものの存在や、値下げバーゲンのありようについて、世の中がどこか否定的にとらえているのをもったいないと感じていました」と矢後さん。「ラインを越える」というコンセプトのもと、ネガティブな要素を払拭するアイデアを練ったという。
その話を聞いて、ファッションとは機能や利便性だけでなく、手に入れた時のワクワク感、まとった時の高揚感が価値を持っているものであり、そこを置き去りにしてはいけない、否、そここそを訴え続けることが大事と改めて思った。
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