木彫刻の産地として知られる富山県西部の南砺(なんと)市にある井波というエリアで、メタバースを活用した関係人口創出のための取り組みが始まっている。企画や制作、運営をしているのは、5年前から井波に住むフォトグラファーの大木賢さん。メタバース制作の経緯や見据える将来性について聞いた。
写真の未来を3D表現に見出した
「バーチャル井波」は、メタバースプラットフォーム「VRChat」と「cluster」につくられた、井波エリアの街並みをモチーフにしたワールド。井波のメインストリートである石畳の「八日町通り」を中心に、木彫刻の産地ならではの彫刻師の工房や美術館、住民が集うラウンジなどが軒を連ねる。ユーザーはVRゴーグルを通じて、もしくはパソコンやスマホにアプリをダウンロードすることで、街を散策できる。これは自治体の取り組みではなく、フォトグラファーの大木賢さんが自身で始めた企画だ。現在は彫刻師1人と共に企画制作・運営に携わる。
大木さんが3D表現に興味を持ったのは、写真家という仕事の将来への不安からだった。「天候に左右されたり、再現性の無さだったり。写真というメディアも撮影も大好きですが、将来のことを考えるとちょっと危ないなと考えていました」。
そこで本格的に3D表現の勉強を開始したのが、約1年前のこと。バーチャル空間で撮影スタジオや撮影対象物を再現し、その中で「撮影」をしても、予想以上にクオリティの高い画が仕上がることもわかってきた。「光の当て方の技術などは、撮影時のノウハウをそのまま活用できます。また撮り忘れがあっても、すぐに同じ構図で追加撮影ができる。実用化はまだ先でも、可能性を感じました」(大木さん)。
そんな中、自身が住む井波エリアに目を向けた。若者の流出や高齢化によって地域の活力が失われつつあるが、本来は木彫刻を軸に独自の価値を持つ街だった。「そこでメタバースを用いて何かできないかと考えるようになりました。(2022年)4月に街の人たちに『やりたい人―!』と声をかけ始めて。とはいえ最初は価値を理解してもらえないので、早速プロトタイプをつくって体感してもらうことにしました」。
「バーチャル井波」をつくる上で意識したのは「街をそのまま再現しない」ということだった。「実在の街に沿って再現しようとすると...