実際にメタバース事業を手がける人々が、収益のその先で見据える本質的な価値は何なのだろうか。それぞれ異なる視点からメタバースのプロジェクトに取り組む3人が、現時点の課題や今後の可能性を語る。
三者三様のメタバースの世界
──ご自身が手がけているメタバースの事業について教えてください。
仲田:三越伊勢丹の社員として仮想都市のプラットフォーム「REV WORLDS(レヴワールズ)」の運営をしています。仮想伊勢丹新宿店やバーチャル東京ドームなどを配しており、「デパ地下」や「ビューティ」などのお店では、実際にECで商品をご購入いただける仕組みです。
つくった目的は、百貨店の従来型のビジネスモデルの刷新。百貨店の営業利益率は1~3%ほどで、入社当初から新たな価値を提案すべきと考えていました。当時からメタバースの構想を提案していましたが、今から3年前に最初のバーチャル伊勢丹を制作して社内に提案したことをきっかけに、ようやく動き出しました。昨年の3月からは“仮想都市”として事業化しています。
朴:え、自分でつくったんですか?(笑)。
仲田:そうなんです。会社で理解してもらうにはそれが一番早いなと、帰宅後に毎日5時間かけて学びながらつくりました(笑)。
宮原:驚きました(笑)。僕はKDDIと吉本興業と博報堂が推進している大阪の街をモデルにしたメタバース空間「バーチャル大阪」のクリエイティブディレクション、各種企業のイベントやプロモーション案件を担当しています。「バーチャル大阪」は大阪府と大阪市が「大阪・関西万博開催に先がけて都市の魅力を国内外に発信する、都市連動型メタバース事業」というテーマで公募を行い、3社で応募して採用されました。
最近では大阪のショッピングモール「ATC」のステージでお笑い芸人のライブをやりながら、「バーチャル大阪」でもセットを組んでパブリックビューイングをする企画をしました。バーチャルの方にはアバター姿の芸人さんが登場し、独自の価値を付与して、リアルイベントの拡張のようなことをしています。
朴:バスキュールでは以前からJAXAと協力して、国際宇宙ステーション(ISS)と地球を繋いで双方向でライブ配信が可能な「KIBO宇宙放送局」を運営しています。そこで既に宇宙から見える地球のデジタルツインとISSのモデルをつくっていたので、もう少し頑張ればメタバースになるぞ!とJAXAに声をかけてつくったのが「THE ISS METAVERSE」。
地球や太陽はもちろん、ISSのリアルタイム位置情報と連携しているメタバースなので、日の当たり方も含めて、ISSに滞在する宇宙飛行士と同じ地球を、地上にいながら体感できます。リッチな表現を求めるメタバースは20人までしか同時に参加できないのですが、実際のISSも12人ほどしか入れないのでデジタルツインとしてちょうどいいなと(笑)。
宮原:凄すぎますね。空想の世界が現実で体感できるとは。
──メタバース事業を展開する上で重視していることはなんでしょうか。
朴:Meta社も標榜している3つのポイント、「Immersive(360度空間に包まれた没入感の提供)」「Presence(離れている人同士でも同じ場に存在している感覚の提供)」、そして「Interoperability(プラットフォームの枠を超えて、アバターを活用できる等、トークン経済の実装)」は僕も大切にしています。「THE ISS METAVERSE」は離れた人同士で宇宙空間にいるような臨場感を共有しながら感動を味わうことができ、とくに前者2つを追求した格好です。
宮原:たしかに僕も仕事をする中で、クライアントにメタバースで何かやりたい、出店したい、というお話を多数いただくのですが、「それってメタバースでやる意味があるんだっけ?」と考えるようにしていて。メタバース上でインタラクティブな施策ができるといっても、それってリッチなWebサイトじゃダメなのか?とか、メタバース上で動画コンテンツを配信するときに、それってYouTube配信でもよくないか?とか。その時に朴さんがおっしゃる「Presence」、同じ場にいる感覚を共有できること、という点に立ち返ります。
スポーツのパブリックビューイングは、映像を通して見るなら家でも同じですが、「皆で見る」ことに価値を感じているんですよね。そういった際にメタバースは非常に有効だと思うので、メタバースをやることが目的ではなく手段となっているか、ジレンマも感じながら企画をしています。
仲田:同感です。「YouTubeでもよくないか?」を否定できるものでないと、メタバースでやる意味はないと思います。
朴:そうですよね。僕もリアル世界を単に再現したデジタルツインには意味がないと思っています。メタバースでは...