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青山デザイン会議

伝統産業をリデザインする

菊地海人、玉木新雌、馬場匡平

ここ10年ほど、伝統的な技術を活かしてリデザインされたプロダクトや、産地との新たなつながりが次々と生まれています。集まってくれたのは、1848年、現在の岩手県奥州市で創業した南部鉄器工房 及富(おいとみ)のアートディレクターで、2021年度グッドデザイン賞を受賞したスワローポットをはじめ自社のアーカイブの復刻や広報を手がける菊地海人さん。

「イッテンモノ量産主義」をコンセプトにブランド「tamaki niime」を立ち上げ、播州織の産地、兵庫県西脇市で新しいものづくりに取り組む玉木新雌さん。2010年、400年の歴史を持つ波佐見焼の新ブランド「HASAMI」を立ち上げ、2021年には地元、長崎県波佐見町に私設公園「HIROPPA」をオープンしたマルヒロ代表の馬場匡平さん。新型コロナの影響で存続の危機に直面している伝統産業のこれから、そして産地に生まれつつある変化とは?日本のものづくりをリデザインする3人が、熱く語り合いました。

Text : rewrite_W

伝統工芸ブームと産地のここ10年

馬場:400年以上続く波佐見焼という日常雑器の産地、長崎県の波佐見町でマルヒロという焼き物屋をしています。2010年に「HASAMI」というブランドを立ち上げて、昨年「HIROPPA」という私設の公園もつくりました。

菊地:及富は岩手県で南部鉄器をつくっている工房で、1848年に創業して今年で174年目を迎えました。私はその跡継ぎとして、2016年から商品デザインや企画、最近ではSNSを活用した広報などを担当しています。

玉木:私は兵庫県の西脇市というところで、播州織の織物を使って「一点ものの作品を量産しよう」という試みをしています。2004年に「tamaki niime」というブランドを立ち上げて、ショールからスタートしてニットやカットソーなど、染めから販売まで一貫して手がける面白い集団をつくっています。

菊地:家業ではあったものの、バブルの後の売上低迷という大変な状況を見てきたし、親からも「継げ」と言われたことは一度もありませんでした。それが自分の子どもが生まれて、「いつかこの子と一緒に仕事をしたい」と思って、戻ってきたんです。

馬場:僕は福岡でフリーターをしていた12年ほど前に、急に父ちゃんがやってきて「帰ってこい」と言われてですね。やることもなかったので「わかった」って(笑)。考えてみると、デザインも焼き物も勉強していなかったので、ギリギリのタイミングだったかもしれません。僕らの街って分業で、うちは窯を持たない商人なので、地元の職人にお願いしてものをつくるのですが、じいちゃんを知っている人とか、友だちの母ちゃんなんかがまだ現役だったので。

玉木:私が播州織に行き着いたのは、「一点ものの生地をつくる」というクレイジーな職人さんとの出会いがきっかけ。せっかくならオリジナルの生地を使ってブランド化したいと思ったんです。29歳ぐらいで、まちづくりの一環として呼ばれてきたものの、全員がウエルカムではなかったし、つながりが一切ないので大変でしたね。

菊地:ここ10年の間に、南部鉄器に起こった一番大きなイベントって、中国からの爆買いなんです。爆買いというとマイナスのイメージで捉えられがちですが、それがなかったら世代交代も進まなかった。同時に、伝統工芸がブームのようになっていって。

馬場:その流れは、僕らの街にとってはものすごくありがたいこと。波佐見町は長い間、日本一の磁器の産地・有田焼の下請けで、歴史はあるけれど、まだ見ぬ産地で。2010年ぐらいから、アパレルが雑貨を売り、雑貨屋が洋服を売る、ライフスタイルショップが生まれたのも追い風になりました。

菊地:2010年の上海万博に南部鉄器が出展して風が吹いてきて、同時にフランスで色をつけた南部鉄器がブームになりました。昔は50~70代のおじいさんが骨董として買うものでしたが、国内の顧客は今、健康や美容意識の高い30~40代の女性が多く、どんどん若返っているんです。

玉木:播州織は「工芸」ではなく「産業」なので、産地としてはブームは感じていないんじゃないかな。私がここに来たのが12年前で、それから若い職人がブランドを立ち上げようといった動きは少しずつ広がっていますが、まだまだですね。

馬場:めちゃくちゃ有名になったわけでもないし、すごく売れているわけでもない。でも、なんでやっているかっていうと楽しいんですよ!会社のみんなや職人のおっちゃん、アーティストと、ああでもないこうでもないってやっているのが。こっちがやりすぎると、「それはやりたくない」って言われることもあるけれど(笑)。

    OITOMI'S WORKS

    及富
    1848年、現在の岩手県奥州市で創業。「鉄を活かし鉄と生きる」をコンセプトに、デザイン、鋳造から仕上げ、販売までを手がける職人集団。

    スワローポット

    南部鉄玉 鉄分補給 アマビエ

    ウッドグレインシリーズ

    陰陽 翡翠

    みやび

    蜻蛉

    立目 紫金

    平丸あられ(革ハンドル)

    平成丸あられ

    令和あられ急須

    ブラックホール

何をやっても“リ”になってしまう

玉木:播州織って、糸を染めてから織るので色を混ぜられるのが魅力ですが、最初に見たとき、生地自体はあんまりかわいくないと感じて。なぜかというと織る人、色を決める人というように、分業で成り立っている産地だから。ちょっとずつボタンをかけ違えた結果、ダサくなってしまっている。せっかく産地に来たなら全部をやってみたいと思っていたし、職人さんとは少し視点が違ったのかもしれません。

菊地:私も、産地の人が自分たちの魅力に気付いてなさすぎる、というところからのスタート。南部鉄器としては400年、鋳物と捉えると900年以上の歴史があるのに、それに地元や職人自身も無自覚だったり。店頭に並ぶのは売れやすい商品で、職人はつくって卸すだけだから、お客さんが本当に求めているものと温度差がある。

玉木:そうそう。周りの人は「密度を詰めたほうがいい織物だ」って言うけれど、時間がかかるから、ゆるく織った方がいいよねとか。技術は活かすけれど、発想は素人らしく柔軟に。口で言っても気付いてもらえないなら、自分でやろうって。

菊地:うちにも70年分ぐらいプロダクトのアーカイブがあって、「今だったら一周どころか二周回って、めちゃくちゃかっこいいんじゃない?」っていうものも多いんです。父が38年前にデザインした「スワローポット」もそうで、2019年にTwitterで紹介すると、トントン拍子で復刻が決まり、昨年グッドデザイン賞を受賞しました。

玉木:私はたまたま産地のことを知らなかったから、「この方がかわいい」とか「一点ものの方が限定感があっていい」というように、試行錯誤しながらひらめきを形にできた。

菊地:全く違った価値観を持っている人が入ってきた瞬間に起きる化学変化ってめちゃくちゃ面白いし、それをやろうって言える環境は、工芸でもつくれるんだなと感じますね。南部鉄器って、世界的な評価はあっても、製造元までは知られていないのが現状。今は中国製の模倣品がAmazonでも売られているので、改めてブランディングをしなきゃいけないなと。

馬場:リデザインとかリブランディングといっても、厳密には、当時と全く同じものはつくれないじゃないですか。土が取れた場所が違う、焼き方が違う、天然顔料ではない……何をやっても“リ”になっちゃう。焼き物という素材から見ても、江戸時代には日常食器だったけれど、今はいろいろな素材があるので、もはや「暮らしを豊かにする」嗜好品なんですよね。

菊地:確かに、私たちも復刻とはいっても、カラーや仕様を現代風に変えたり、何かしらのアレンジを加えたりしていますね。

馬場:玉木さんが、分業なのでダサくなるとおっしゃっていましたが、僕は逆にそれが面白いんです。二日酔いでベロベロのおじさんにお願いして、いざ上がってきたらめちゃくちゃ間違ってるけど素敵で。「どうやってつくったと?」「覚えてらんねえ」「じゃあ実証してみよう」みたいな(笑)。

菊地:うちは一貫生産なので、自社でほとんど完結するんです。それでも元バーテンダーの友人を入れたら、鉄瓶にトゲを生やし始めたり、ドクロのスタンプを押し始めたり。たまたま旅行でやってきた男性が、南部鉄器の音に魅力を感じて、筐体に鉄器を使ったギターのエフェクターをつくって起業した、なんてケースもあります。

馬場:去年、企画のスタッフが2人から...

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