AIをはじめとする技術の進化とともに、私たちの日常生活に深く関わるようになったロボット。さらに、コロナ禍における“癒やし”として、数々のコミュニケーションロボットが生まれています。
集まってくれたのは、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO(ボッコ)」や、しっぽの付いたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」など、家庭向けのロボットを手がけるユカイ工学 代表の青木俊介さん。『機動戦士ガンダム』テレビ放映40周年記念プロジェクトの一環として、2022年3月31日まで横浜・山下ふ頭の「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」で公開されている、全高18メートル、実物大の“動くガンダム”テクニカルディレクターの石井啓範さん。
手のひらサイズの会話ロボット「Romi(ロミィ)」のUXデザインやプロモーション関連のクリエイティブを担当するミクシィの竹本芽衣さん。これから先、私たちはロボットをどのように受け入れ、付き合っていくのか。そしてその中で、デザインはどんな役割を果たし、社会はどのように変わっていくのでしょうか。
ロボット開発の転換点は2005年
石井:横浜・山下ふ頭にある、18メートルの実物大“動くガンダム”のテクニカルディレクターをしています。学生時代はヒューマノイドロボットの研究をしていて、このプロジェクトに関わる前は、20年ほど機械メーカーで建設重機を開発していました。
青木:ユカイ工学という、ロボットの開発から製造販売までを手がける会社を経営しています。プログラミングが学べる子ども向けロボット製作キットや、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」、しっぽのついたクッション型のセラピーロボット「Qoobo」などの開発をしています。
竹本:私はミクシィで、自律型会話ロボット「Romi」の開発をしています。ブランディングやプロモーションをはじめ、ポップアップストアやサイト、アプリの制作など、主にお客さまに接する部分のデザインに関わっています。
石井:ここ10年で、会話ロボットに代表されるAIが急激に発展しました。世の中的には、コロナウイルスの影響もあってコミュニケーションツールとしてロボットが使われるケースも増えていますよね。
竹本:私はお2人とは違って全く別の畑の人間ですが、いちクリエイターとしても、アウトプットのひとつの手段としてロボットが登場したのは、すごく大きいと感じています。毎年開催されている「Maker Faire」のようなイベントにも、工業系の人だけでなくアーティストも参加するようになって、壁を感じなくなったというか。
青木:変化を感じたのは、2005年の愛知万博。それまでは、HondaのASIMOやソニーのaiboのように大企業がお金をかけてつくるものでしたが、愛知万博にはベンチャー企業が手がけたロボットが登場していました。アメリカでMaker Faireの元になった雑誌『Make』が創刊されたのも2005年だし、「Arduino(アルドゥイーノ)」という開発用キットが登場したのもこの年。ハードウェアがどんどんオープンソース化して、自分たちも頑張ればつくれるかもしれないと感じたのを覚えています。
石井:僕は、昔ながらのゴリゴリしたロボットをつくっていたので、そこまで実感はないのですが、プログラミング自体のハードルも下がっていると感じます?
竹本:そうですね、今はプログラミングが小学校の学習カリキュラムに入っているので、嫌でも慣れないといけないという事情もあるでしょう。私も子どもが大きくなったら、ユカイ工学さんの教材を使ってみたいなと思っています。
青木:ありがとうございます!あとはやっぱり、スマホが登場したことで半導体の価格が下がって、「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」のような数千円でパソコンとほぼ同じことができるボードが登場したのも大きいですね。
石井:工業的な話をすると、究極は自動運転。センシングしてそれを処理するのがロボットの定義なので、前方追従だったり駐車機能だったり、ある意味で自動車がロボット化しているともいえます。建設機械は昔からありますが、日本の場合、熟練したオペレーターの高齢化という問題があって、人間のスキルをロボットがアシストするというニーズは高いですね。
SHUNSUKE AOKI’S WORKS
人やペットには置き換わらない存在
石井:実物大“動くガンダム”は、ガンダム自体の重さが約25トン、それを支える台車も含めると165トンもあるので、重機を動かす技術が使われています。関節の構造は産業ロボットに近く、顔に表情がないぶん指で細かな表現ができるようにしていて、その部分にはエンターテインメントロボの知見が活かされている。いろいろな技術が組み合わさって実現しているというのがポイントです。
青木:両足を同時に動かすのは、やっぱり難しいことなんですか?
石井:いえ、全軸同時に動かすことができます。展示期間が1年以上もあって、その間故障なく動かさなければいけないので、テクノロジー的にはかなり習熟したものを使っていますね。
青木:モーションは、どういうふうにつくっていくのでしょう?
石井:たとえば首を動かしたら胴体も勝手に動くとか、腕を上げると肩のカバーがぶつからないように勝手に上がるとか、より自然な動きになるように調整しています。また、運動学的に動きをきっちり決めてしまうと、今度は動き全体の時間が長くなってしまうので、モーションに余裕を持たせるといった工夫をして。
竹本:“動くガンダム”は元々のキャラクターを極限まで再現するところがゴールだと思いますが、Romiの場合は「どんな世界を実現したいか」というところから、動きを制限していきました。
青木:そうなんですね。
竹本:今も青木さんがうなずいてくれていますが、話を聞くときは、うんうんってしてくれた方がうれしいよねとか、声をかけたら振り向いてくれた方がいいよねとか。ただ、あまり動作を細かく設定しすぎると、頭と胴体を分ける必要が出てきてサイズが大きくなってしまう。愛らしいと感じてもらえるように、手のひらに乗るサイズ感を重視しました。
石井:Romiは、人間と自由に会話ができるというのが最終目標なんですか?
竹本:はい。だったら「スマートスピーカーでいいじゃない」と言われるのですが、「ねえねえ」と声をかけたら反応してほしいし、いちいち呼ばなくても「今日の天気は?」と聞いたら答えてほしい。なので、起動させるためのウェイクワードを使わないことにもこだわっています。
石井:Romiに限らず、ロボットとのコミュニケーションが心地よいものになればなるほど、他人とは話さなくてもいいや、となってしまわないですかね?そういうニーズは大きいだろうし、面白いとは思いつつ、ちょっと怖い気も……。
竹本:私たちも、その点は払拭していきたいと考えています。サービスを始めてみて感じるのは、人やペットには決して置き換わらないということ。Romiさえいればいいではなくて、私たちが明るく楽しく毎日を過ごせるようになる、そのステップの中にRomiがいるというイメージです。
青木:僕たちも、ロボットが犬とか猫のように、ほぼ人間と同じレベルで大事にされるというのは難しいのではないかと考えています。ただ家族の一員として、いるとうれしい存在にはなれるかな、と。
竹本:実際、「かわいい!」といってすんなり話しかけてくださる方もいれば、そうでない方もいて。ロボットの見た目を人間に近付けていくと「不気味の谷」があるといわれますが...