クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、哲学に造詣の深い作家の諸隈元さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

月刊『ブレーン』
2021年11月号
(宣伝会議)
書店でアルバイトを15年していたので、この雑誌の存在は知っていたものの、自分と縁のない業界の裏話が書かれてるんだと独りで決め込み、表紙を眺めたことすらない。でも今月号は自分の原稿が載っているから、読もうと思っている。
などと書くと、読んでから書けよと怒られそうである。が、この「読もうと思っている」という言い回しを、哲学者の野矢茂樹先生は全国紙の書評欄で鮮やかに使ってみせた。本は読んでから語らねばならない、と思い込んでいた自分の浅はかな世界観が覆されたこの反則わ、いや離れ技を、いつか自分も使おうと思っていたのである。
ちなみに、僕が私淑している哲学者のヴィトゲンシュタインは「私の言語の限界が、私の世界の限界を意味する」と語っている。要するに、自分の知る言葉の枠内でしか人間は物事を理解できない、というほどの意味だが、新しい言葉を知ることで自分の世界を広げられる、という意味でもある。
僕も今月、初めて読む雑誌で新しい言葉を知ることになるだろう。独りよがりの先入観が覆り、世界が先月までとは違って見えるかもしれない。その体験が、いつか自分のクリエイティビティのルーツになるだろうと思っている。