クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、画家の平松麻さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『猫の目』
メビウス、アレハンドロ・ホドロフスキー(著)、原正人(訳)
(竹書房)
痺れたいときは本棚から『猫の目』を取り出す。削がれた台詞と、暗闇をインクにして描いたかのような線画に触れさえすれば、いつでもゾクゾクできる。
映画監督のアレハンドロ・ホドロフスキーと、フレンチコミックの巨匠メビウスによる共作のバンドデシネ。バンドデシネと言っても、1ページ1カットずつの構成で、色彩も黄黒白の3色のみ。廃墟に立つ男と、襲われる猫と、2つの眼玉をつかんで飛ぶ鷲、この3者が交差するいっとき、残酷な時空が出現してゾッとする。それを目の当たりにしながらも、わたしは高揚と期待を感じずにはいられない。本を持つ手の血管がピクッと膨らんだ。描かれた世界は無音でどこか終焉を感じさせるのに、男と鷲だけはドクドク鼓動を高めて新生していくようで。
言葉と絵がお互いをバッチリ照射し合うからこそ、照らし出される路がある。その路を読者として歩ける愉悦といったらこの上ない。
メビウスが1カット描きあげるごとにホドロフスキーに電話をかけ、往復100キロのドライブで絵を見に来させたらしい。奇才同士、自由な才能に酔いしれて精神的な快感を共有したとき、こんな強烈な1冊ができるのか!と昂奮する。