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SDGsの達成へ クリエイターが考える持続可能な社会

「見えづらい」を「見える」に変えるプロジェクト

QDレーザ「With My Eyes」

2006年に富士通研究所から独立し、半導体レーザの開発・製造・販売を手がけてきたQDレーザ(神奈川・川崎)。弱視(ロービジョン)の人をサポートするレーザ技術を有し、製品化を進めてきた。20年12月には電通やAOI Pro.とともにその技術を活用したプロジェクト「With My Eyes」を開始した。

レーザの力で「見える」を叶える

QDレーザ 代表取締役 菅原充さんは「ロービジョン(弱視)の方は、世界に約2.5億人、日本には約145万人いると推定されています。当社のミッションは『レーザの力で、“できない”を“できる”に変える。』こと。当社の技術や製品がロービジョンの方々にとっての支援となればと考えてきました」と話す。2006年に独立した同社では、12年から「レーザ網膜投影技術」の開発を進めてきた。これは超小型のプロジェクタから目の網膜に直接映像を投影する技術を指し、投影される映像はピント位置に影響を受けないため、細かなピント調整は必要ない。

その技術を活用して、QDレーザはアイウェア型のデバイス「RETISSA」シリーズを開発。「RETISSA Display」として19年に発売した。PCやスマートフォンなどとHDMI接続することで、画面の映像が直接網膜に投影され、近視・遠視・乱視・老眼などの人でも映像をクリアに視認することが期待できる。またデバイスを通さずに認識する映像との自然な重ね合わせも可能なため、AR・MR分野での応用が模索されてきた。

さらに2020年1月、同シリーズの「RETISSA メディカル」は、厚生労働省から国内で医療機器として販売する承認を得た。アイウェア型デバイスに小型カメラがついたもので、撮影した映像をリアルタイムで網膜に直接投影することで、ロービジョン(弱視)者でも、「見える」ようになるしくみ。こちらは21年2月に発売したばかりだ。

とはいえ、先端技術を駆使した機器のしくみを説明し多くの人に魅力を知ってもらうには、工夫が必要だ。そこで19年度から電通をパートナーに迎えている。「私たちの持つコアテクノロジーと、広告のプロの“伝える力”とが合わさることが重要だと考えています。それが上手く結実したのが今回実施した『With My Eyes』プロジェクトです」(菅原さん)。

「困っている」は勘違い?

「With My Eyes」は一言で言うと“見えづらい”を“見える”に変えるプロジェクトだ。AOI Pro.やメガネブランド「Zoff」を展開するインターメスティック、JALグループの国内線航空会社 ジェイエアなど6社が賛同し、20年12月21日に第一弾の取り組みが発表された。網膜投影技術を用いたカメラ型デバイス「RETISSA SUPER CAPTURE」を制作し、ロービジョン者が自らの目で写真撮影に挑む、という内容だ。

少しでも多くのロービジョン者の関心を得るため、「網膜色素変性症」などさまざまな症状のある男女5人に参加してもらい、撮影したい対象を事前にヒアリング。小旅行の中で撮影を実施し、その様子をプロジェクトムービーとして公開したほか、その際に撮影した写真の展覧会をZoff 原宿店で21年1月下旬まで開催した。

企画の経緯を電通のクリエイティブディレクター 秋山貴都さんは、「当事者の方々にヒアリングをする中でハッと気づかされたのは、必ずしも私たちが勝手に想像するほど困ってはいない、という事実。物心がついた頃から視力が弱い方も多く、当たり前ですが、皆さん自立されています。デバイスを通じて“マイナスをゼロにする”という発想から、“生活の+αとなる価値を提供する”方向に軌道修正し、今回の企画ができました」と話す。「With My Eyes」というプロジェクト名も、同じくヒアリングの中での「この目と生きていく」という言葉を元に、秋山さんが名付けた。

当事者の言葉をありのまま伝えた動画

動画制作においては、「当事者がどう考えているかを...

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