アイデアとは新しい組み合わせである
『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)を初めて手にしたのは、美大受験の予備校に通っていたとき。同じ予備校で尊敬していた友人に。この本いいよ」と薦められたのがきっかけです。その友だちはアートやデザインに詳しいだけではなく、流行の半歩先を颯爽と走っているような人。感度が高く知的で、今から30年以上前に「デザインは表層的なものではなく、経済も動かす」といった話をしていたほどです。そんな友人がすすめるなら間違いないだろうと、買ってみました。
デザインの見方
美術系の高校を出て、そのまま武蔵野美術大学の視覚デザイン科に進みました。当時ハマっていたのは、アメリカのサブカルチャー。レコードジャケットのデザイン、イベントのフライヤーのレタリングなど、平面上の表現をいかにかっこいいものにするか、を考えていて。そんな頃に、大学の授業で見せてもらったのが、ブルーノ・ムナーリの絵本『きりのなかのサーカス』でした。
初版は1968年のイタリア。ブルーノ・ムナーリが、自身の子どものために制作した本の1冊です。ストーリーは、「きりのなか」を進み、サーカスに行って帰ってくるだけ。「きりのなか」にいる場面にはトレーシングペーパーが、サーカスの場面には鮮やかな色の紙が用いられています。ページをめくると少しずつきりのなかにサーカスが浮かび上がってくる、そんなしくみになっているんです。
初めて見た時のことを、よく覚えています。めくるたびに、空間が、時間が広がっていく衝撃。何かが飛び出したりする立体の絵本ではないのに、経験としては「立体」だったんです。本がトリガーとなり、自分の記憶を呼び覚ましてくれるような感覚。それまで平面の表現に夢中だった自分にとって、表現の幅を広げられた体験でした。授業で見せてもらったのは、確か初版のイタリア語版。当時でも相当貴重なものだったと思います...