赤瀬川原平のパロディーとユーモア
これまでデザインに関して、たくさんの人やものから影響を受けてきました。その中でもデザインに対する態度で最も影響を受け、今もたびたび思い出すものがあります。それは、前衛芸術家の赤瀬川原平が1970年代に週刊誌『朝日ジャーナル』(朝日新聞社)で連載していた『櫻画報』です。
デザインの見方
美術系の高校を出て、そのまま武蔵野美術大学の視覚デザイン科に進みました。当時ハマっていたのは、アメリカのサブカルチャー。レコードジャケットのデザイン、イベントのフライヤーのレタリングなど、平面上の表現をいかにかっこいいものにするか、を考えていて。そんな頃に、大学の授業で見せてもらったのが、ブルーノ・ムナーリの絵本『きりのなかのサーカス』でした。
初版は1968年のイタリア。ブルーノ・ムナーリが、自身の子どものために制作した本の1冊です。ストーリーは、「きりのなか」を進み、サーカスに行って帰ってくるだけ。「きりのなか」にいる場面にはトレーシングペーパーが、サーカスの場面には鮮やかな色の紙が用いられています。ページをめくると少しずつきりのなかにサーカスが浮かび上がってくる、そんなしくみになっているんです。
初めて見た時のことを、よく覚えています。めくるたびに、空間が、時間が広がっていく衝撃。何かが飛び出したりする立体の絵本ではないのに、経験としては「立体」だったんです。本がトリガーとなり、自分の記憶を呼び覚ましてくれるような感覚。それまで平面の表現に夢中だった自分にとって、表現の幅を広げられた体験でした。授業で見せてもらったのは、確か初版のイタリア語版。当時でも相当貴重なものだったと思います...