IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

青山デザイン会議

生活様式を変える言葉の力

磯島拓矢(電通)、KEN THE 390、堀田秀吾

いったい今、どんなメッセージが求められているのだろう。コロナ禍で、私たちの暮らしや常識が大きく変わる中、アウトプットや表現について悩んだ人も多くいることでしょう。今回の、青山デザイン会議のテーマは「言葉」。

中高生約100人の合唱をリモート撮影して話題を集めた大塚製薬の「ポカリスエット」をはじめ、キリンビールや宝島社など、数々のCM・広告を手がける、電通のクリエーティブディレクター/コピーライターの磯島拓矢さん。自身の音楽活動はもちろん、テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』審査員のほか、マキタのWebムービーで八村塁選手と共演するなど、ジャンルを超えて活躍する、ラッパーのKEN THE 390さん。明治大学で教鞭をとる傍ら、学びとエンターテインメントを融合した著書を多数執筆、テレビのコメンテーターとしても活動する堀田秀吾さん。

異なるジャンルで、言葉を生業とする3人が、表現の“ニューノーマル”を語ります。

“密”なのはリアルよりもオンライン!?

磯島:電通で、コピーライターやクリエイティブディレクターとして働いています。「ポカリスエット」や「キリン 一番搾り」「本麒麟」のCMなどのほかに、宝島社の新聞広告をつくったりもしています。

KEN:僕はラッパーとして曲を出してライブをして、っていうのがメインの活動です。最近では、マキタのCMで八村塁さんのドリブルの音で曲をつくってラップをしたり、Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』の劇中のラップ監修をしたり、プロデュースの仕事も増えています。

堀田:明治大学の法学部で教鞭をとっています。法言語学といって、法律の世界のコミュニケーションを言語学を使って分析するというのが専門分野。そこから発展して、ここ10年ぐらいは科学的な研究を元に一般書を書いていまして、10月には『図解「ストレス解消」大全』(SBクリエイティブ)という本が出版されます。

磯島:コロナで一番かわいそうなのは大学生だっていう話もありますよね。

堀田:そうですね。講義はオンライン配信だし、サークルも学園祭もなし、入試以来一度も学校に来ていない生徒もいるくらいなので。僕は大学って、コミュニティづくりの役割もあると思っているんです。どんな人と出会って、どんな刺激を受けるか、せっかくいろいろなことを学べるタイミングなのに、それができない。

KEN:僕が今大学生だったら、耐えられないかもしれません。

堀田:オンラインの授業だと記録も残るし、出席率も高くなるので、これはこれで悪くないんじゃないかという先生もいます。でも、学校に行かないっていうのもまた、大学生のひとつの自由だったんですよね。研究者的には、学会がオンラインになってしまったのも痛い。学会で一番大事なのって、発表を聞くことじゃなくて、他の先生とつながって、雑談の中から新しい研究のネタを見つけることですから。

KEN:音楽業界も、お客さんを入れたライブがほぼできない状態なので、全て配信に切り替わっています。

堀田:オンラインのライブって、熱量というか、ソウルみたいなものが伝わりづらいというのはないですか?

KEN:はい。目の前にお客さんがいる状態なら、熱くパフォーマンスをすれば届くかもしれませんが、カメラを通すと、それだけでは空回ってしまって……。求められる能力も変わってきた気がします。

堀田:教室でのライブの授業は、雑談もできますし、こちらもやっていて楽しかったんです。でも、配信だと、そういうノイズ的な部分がなくなってしまう気がして。

KEN:ただ一方で、よさもあると思うんです。お客さん全員が最前列にいられて、自分に向けてパフォーマンスをしてくれるっていう感覚は、今までのライブにはなかったものなので。

磯島:コメントを通してリアルタイムに反応をもらえるのは、「歓声とは別の手応えがある」って言う方もいましたね。

KEN:僕は舞台の音楽監督もしているのですが、舞台によっては今、お客さんを入れつつ配信もしていて、カメラの視点が自由に切り替えられたり、特定の役者さんを追う日があったり。やっていることは毎日同じだけれど、何度も楽しめるような工夫をしている作品もある。配信なら会場のキャパシティにも縛られないですし、そういう可能性の種みたいなものがちょっとずつ見つかっていると感じます。

堀田:オンラインになってよかったこととしては、しゃべりの練習をする先生が増えたこと。それから、チャットにしろメールにしろ、学生たちがよく発言するようになったというのはありますね。

KEN:オンラインの方が、コミュニケーションがとりやすい?

堀田:きっとそうだと思います。授業後に聞きに来るのなんて、ひとりか2人だったのが、今は必ず何人かが質問や感想を送ってくれますから。あとは、オンラインだとふだんの授業よりも集中するので、疲れてしまうなんて話も聞きますね。

磯島:同じように「Zoomの会議は疲れるから嫌だ」という後輩がいるのですが、彼らにとってはある意味、こっちの方が密なんですね。ライブにしろ授業にしろ、これまでなかったリアクションがありますし、生で会うのが一番密だったはずが、必ずしもそうではないのが面白い。

KEN:ファン限定のオンラインライブを企画したとき、Zoomで双方向でつながるのがいいか、ただYouTubeで配信するのがいいか聞いたんです。僕はてっきりお互い顔が見える方がいいかと思っていたら、圧倒的にみんなYouTubeを選んで。

磯島:別に自分が見られたいわけじゃない(笑)。人とつながりたいって、ひとくくりの言葉にしがちですけど、そこには意外と複雑な気持ちがあるんですね。

コロナで変わった表現、変わらない表現

磯島:僕は数年前から、高校生をターゲットにしたポカリスエットのCMをつくっていて、コロナ禍でリモート制作をした最初の広告ということで、少しだけ話題にもなりました。もちろん制作のスタイルは変えざるを得ませんでしたが、「渇きを力に変えてゆく。」というコロナ前に書いたメインのコピーは、そのまま変えませんでした。

堀田:それはなぜですか?

磯島:ポカリスエットが若者に対して約束することの根本は変わっていないし、世の中の状況が日々変わる今は、変わらないものを見ておいた方がよいと感じたからです。

KEN:なるほど。僕も、どういう曲をリリースするべきか、すごく悩みました。励ますような力強い曲がいいのか、もっと共感性の高い寄り添う曲、あるいは背中を押すような曲がいいのか。スタッフと喧々諤々しつつ、結局もうちょっと様子を見ようか、という話に落ち着いてしまって。

磯島:広告って、世間のムードに当てていく部分が大きいんです。でも今は、世の中の状況がコロコロ変わってしまう。例えば、街中のシーンを撮るにしても、そこにいる人たちはマスクをしているのか、それともしていないのか。状況が特殊すぎて、今を切り取るのが難しい。

KEN:ふだんは結構強い言葉を使ったリリックも書くのですが、今はゴリゴリのメッセージというよりは、余白があって、受け手に委ねるくらいの方がいいという感覚があります。いろいろな状況に置かれた人がいる中で「100%こうだ!」と言い切るのってすごく難しくて、自分の中で、本当にこれしかないって思えないと出せない。

磯島:すごくわかります。反応が怖いというより、出した瞬間に「ごめん、やっぱりちょっと違う気がしてきた」ってなりそうで。

堀田:僕も連載とかWebの記事を書くときには、かなり気をつかっています。「コロナ」という言葉すらなるべく使わないとか、変な意味で制限をかけてしまって。

磯島:それは同調圧力的なものも含めて?

堀田:ええ。何か言うと、すぐに叩かれますから。心理学的に、誰かを攻撃することで不安を解消しているというのもありますし、それに加えて時間もある。この2つの条件が揃ったら、もう大変ですね。

KEN:やっぱりみんな、不安を抱えているというのが大きいんですかね?

堀田:そうでしょうね。未知のものや病気に対する不安もあるし、これから世の中や経済、仕事がどうなっていくかもわからない。残念ながら、その不安をポジティブな行動に変えられる人は少ないと思うんです。だから、考えない方がいい。

磯島:まさに、先生の本のタイトルどおりですね(笑)。

重要なのは「横のつながり」

堀田:先日、初めてオンラインセミナーを開催したところ...

あと60%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

青山デザイン会議 の記事一覧

生活様式を変える言葉の力(この記事です)
リアルからオンラインへ 体験価値はどう変わる?
「応援消費」を後押しするコミュニケーション
エンターテインメント、クリエイティブビジネスのNew Normal
地域を活性化する活動と新しい「仕組み」のつくり方
働き方の「これから」 を考える
ブレーンTopへ戻る