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青山デザイン会議

エンターテインメント、クリエイティブビジネスのNew Normal

玉井雄大、広屋佑規、松田崇弥

体験価値の高まりとともに、ここ数年、成長を続けていたライブ・エンターテインメント市場。しかし、コロナウイルスの感染拡大にともない、音楽・映画・演劇・アートといった業界が苦境に立たされています。今回集まってくれたのは、そうした厳しい状況の中、いち早くアクションを起こした3人。

監督・脚本家8人によるリモート映画制作プロジェクト「#おうちで映画制作部」を立ち上げた玉井雄大さん。緊急事態宣言下で、Zoom演劇という新たなライブエンタメの形を提示し、話題を集めた「劇団ノーミーツ」主宰の広屋佑規さん。オンライン美術館「#ZoomArtMuseum」ほか、知的障害のあるアーティストが描くアート作品を用いたさまざまなプロダクトやプロジェクトを手がける福祉実験ユニット「ヘラルボニー」代表の松田崇弥さん。この局面を乗り越えるためのヒントやアイデア、そしてエンターテインメントやクリエイティブビジネスのNew Normalを探ります。

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ライブエンタメの新たな可能性とは?

広屋:コロナ以前は、街なかや公共空間を舞台に見立てて、演劇やミュージカルを行う「Out Of Theater」というプロジェクトをやっていました。海外で流行り始めている没入型の演劇「イマーシブシアター」の手法を持ち込んで、何か新しいチャレンジがしたいと考えていたんです。

玉井:実は僕もイマーシブシアターをやりたいと思っていました。ふだんは映画や演劇のプロデュースをしていますが、ニューヨークのホテルを使った「スリープ・ノー・モア」というショーに憧れて。

広屋:衝撃を受けましたよね!

玉井:ただ日本でホテルを貸し切るのはなかなか難しいので、KDDIさんと組んで、昨年「VR演劇」というプロジェクトを立ち上げました。お客さんにVRゴーグルを配って、舞台の途中にゴーグルを着けて謎解きに参加してもらう仕掛けです。4月から第2弾の公演を予定していたのですが、それもコロナの影響で飛んでしまって。

広屋:ライブエンタメって、ある意味、3密が売りの企画なので大打撃ですよね。そこで思いついたのが、Zoomを使って演劇をする「劇団ノーミーツ」です。Twitterを中心にZoom演劇作品を発表したのですが、ありがたいことに一部で話題になりまして、今では発表した動画の総再生回数は3000万回を超えました。

松田:私たちヘラルボニーは、日本全国の福祉施設とライセンス契約を結んで、知的障害のあるアーティストが描いた2000点以上の作品のアーカイブを保有しています。そうした作品を使ってハンカチやネクタイをつくったり、建設現場の仮囲いをラッピングしたり、駅舎をミュージアムにしたり。きっかけは、4つ上の兄が知的障害を持っていたことで、「ヘラルボニー」という社名も、彼が子どもの頃、自由帳に書いた謎の言葉から取っています。

広屋:松田さんとは、渋谷の100BANCHというアクセラレーション施設でも一緒だったので、近況が気になっていました。

松田:うちもコロナの影響で、百貨店の売上がまったくなくなってしまって・・・・・・。何かしなければということで始めたひとつが、Zoomの背景を活用したオンライン美術館「#ZoomArtMuseum」です。

玉井:僕がコロナの自粛期間中に気になったのは、映画監督や俳優さんがボランティアで参加している企画がすごく多いということでした。ちゃんとギャランティを払える仕組みをつくりたいと考えて、映画監督7人と脚本家1人の計8人で、オーディションから公開まですべてリモートで映像作品をつくる「#おうちで映画制作部」を立ち上げました。僕たちが運営している、インディーズ映画に特化した動画配信サービス「DOKUSO映画館」と連携してマネタイズしたいと考えています。

広屋:継続できる仕組みは必要ですよね。劇団ノーミーツも5月に、旗揚げ公演として「門外不出モラトリアム」というZoomを使った長編のオンライン演劇にチャレンジしました。予想以上の反響で、5000名以上の方にチケットを買っていただいて。

松田:それはすごい!

広屋:いくら話題になっても、普通の演劇の場合、会場のキャパシティには限界があります。それがオンラインだと無制限だし、Zoom上なので会場費はもちろん、稽古場代もかからない。

松田:受け止められる数に制限がないっていうのはオンラインの価値ですね。5000人で、仮に2000円とすると・・・・・・ビジネスとして十分成立しますよね?

広屋:計算が早い(笑)。作品のテーマは「もしもこの生活があと4年続いたら?」というもので、入学から卒業までの4年間をフルリモートで過ごした大学生たちを描きました。みんなどこか今の自分の状況と重ね合わせて、共感してくれたのかなと。

玉井:ノーミーツさんのあと、リモート演劇をする人たちが次々登場しましたが、その中でも圧倒的に観られているし、人を集められているのがすばらしい。

広屋:とにかく早く動けたのが一番の理由だと思いますが、僕自身がふだんから新しい演劇の形を模索していたというのは大きかったかもしれません。「あんなの演劇じゃない」という声もあるけれど、まずはやってみようと思えたので。

松田:素人の意見ですが、演劇は目の前でリアルタイムに進んでいくもので、映画やドラマは過去に撮影したものを流すじゃないですか。オンラインで演劇をするとなると、何か違いはあるんですか?

広屋:それは僕たちも、かなり議論したところです。Zoom演劇って、観るのは画面越しなので、演劇なのに映画的。どちらのいいところも組み合わせられるんじゃないか、という仮説は持っていました。

玉井:ライブ感がすごかったですよね。知り合いもたくさん観ていたので、公演の時間に一気にタイムラインが埋まって。

広屋:チャット機能を付けたことで、結果的に、同じ作品を同じタイミングで観る「疑似観劇体験」をつくれたのかな、と思います。席に座って開演を待つドキドキ感を演出したくて、「食事と飲食はご自由に」なんて案内もして。演劇をオンラインに置き換えたというより、オンラインでできる演劇とは何かを突き詰めた感じですね。

松田:なるほど。

広屋:ちなみに、#ZoomArtMuseumはいつでも自由に観られるんですか?

松田:入館料はとっていなくて、毎週土日に予約制で開催しています。この作品は、こんな想いで、こんなふうに描かれているという解説をつけて、最終的にはうちのECサイトにも遷移させる仕組みで(笑)。

玉井:まさにライブエンタメですね。

松田:今まではポップアップショップくらいしかお客さんとの接点がなかったのに、これをきっかけに新たなユーザーが流入して、さらにうちのことを深く知ってもらえる。参加者はまだ1200人くらいですが、大きな可能性を感じています。

    YUTA TAMAI'S WORKS

    DOKUSO映画館
    投票&ランキング機能やスタッフによるレビュー、クリエイター支援システムなどを備えた、国内最大級のインディーズ映画配信サイト。無料視聴作品を含めて、現在150作品以上を公開中。月額980円で、すべての作品が観放題に。

    VR演劇「鈍色とイノセンス~Mixalive殺人事件45年目の真実~」
    リアルで進む舞台演劇とともに、観客一人ひとりに手渡されるVRゴーグルを通して物語が変化していく、新感覚演劇体験の第2弾。

    #おうちで映画制作部
    8人の監督・脚本家が参加し、オーディションから撮影・編集、公開まで、完全リモートで映画制作を行う実験的プロジェクト。完成した作品は、DOKUSO映画館での上映を予定している。

    映画『新卒ポモドーロ』
    日本の“就活”をさまざまな視点から切り取り、毎年1本ずつ映画化する「#観る就活プロジェクト」の第2弾。売り手市場の新卒採用に真摯に向き合う採用担当の姿を描いた。

更地に新しいルールをつくる感覚

広屋:旗揚げ公演では、オンラインでもライブエンタメのよさを表現できたと思う一方で、もっとその体験を拡張できたんじゃないか、とも感じていて。

玉井:とくにコロナ禍は人に会えないので、みんなで同じ時間に同じものを観るっていう体験の価値がすごく高まりましたよね。

松田:リアルタイムの価値って、知的障害がある人にも通じるところがあるんです。というのも「この時間にこれをやらなくちゃいけない」というルーティンを楽しみにしている人がすごく多いので。たとえばうちの兄は、毎週土曜日に必ずTSUTAYAに行って戦隊モノのDVDを借りて、同じ時間に観ていて。

広屋:そういう人たちからすると、今回のコロナは相当大変ですよね?

松田:ええ。僕らがいきなり「水道止めます」と言われたら困るように、彼らにとっては、福祉施設自体がインフラなので...

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