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青山デザイン会議

働き方の「これから」 を考える

田川欣哉、谷尻 誠、徳田祐司

新型コロナウイルスの感染拡大によって、私たちの暮らしや働き方が、否応なく変わらざるを得ない局面を迎えています。今回、オンラインで行われた青山デザイン会議に集まってくれたのは、Takram 代表で、ハードウェア・ソフトウェアからアートまで、幅広い分野で活躍するデザインエンジニアの田川欣哉さん、広島と東京を拠点に活動する設計建築事務所、SUPPOSE DESIGN OFFICEを率いる谷尻誠さん、そして「い・ろ・は・す」をはじめ数々のブランドやプロダクト開発を手がけるcanaria クリエイティブディレクター 徳田祐司さん。

リモートワークがもたらす環境の変化はもちろん、働く場所の意味やコミュニケーション上の課題、アフターコロナに向けて私たちはどう考え何をするべきか・・・・・・。新型コロナウイルス問題を通して見えてくる、クリエイティブの現在と働き方のこれからを語っていただきました。

Text:rewrite_W

オフィスはもういらない?

谷尻:うちの事務所は、3月の終わりからリモートワークにしていますが、これまでも東京と広島の2拠点でやっていたので、それがより進化した感じですね。「もう事務所、解約する?」なんて話をしているくらいで、さらに多拠点化するいい機会だなと。

田川:うちは、もう2か月以上。コロナ状況下での働き方を自社でまとめたドキュメントはすでに第10版になりました。最初は「リモート超快適!」という感じでしたが、緊急事態宣言が出て問答無用で家にいないといけなくなると違う種類のストレスが出てきて、またそれに対応してと、プロトタイピングを繰り返している感じです。

徳田:今のところ、うちもリモートで上手にやれている状況ではあります。ただ悩みとかストレスが、少しずつ積み重なっているのは感じますね。

田川:一番大きいのは、通勤って何だったんだろうということ。それから、集中して作業するには自宅のほうがいいという人は多くて、その2つはプラスですね。

徳田:ただ会話が少なくなったぶん、どうしてもSNS上にみんなの欲求不満が溜まって疲弊していく。それをどうやって発散していくかが重要になっていますよね。

田川:まさにリモートになると、おしゃべりとか意味のないものがスケジュールからなくなって、全部が合理的な活動になっちゃう。Takramは50人くらいの組織ですが、隣のチームが何をやっているか、お互いにわからなくなってしまう。社会的なつながりをキープするために、いかにオフィスが大事だったのかを思い知りました。

徳田:僕らもオフィスでの打ち合わせのときは、初めに井戸端会議をして、情報交換をしていたんです。なので中期的には、チームの育成に徐々に陰りが出始めるんじゃないかなと・・・。

田川:その対策として、僕らはZoom上に誰でも入れるOpen Studioというミーティングルームをつくって、オフィスのバーチャル化のような試みもしています。朝起きて仕事を始めて気づいたら夜・・・みたいに、リモートだと、人間が作業をこなすモノに近づいてしまう気がして。

徳田:僕も今回は、“人間性”が一番大きなテーマだと感じています。マズローの欲求のすべてが揺らいでしまっているので。

田川:“下”が揺らいだのは久しぶりですよね。東日本大震災以来かもしれない。

徳田:今回は、一番下の生理的欲求まで揺るがされていますから。経済が流れていることによって自己表現ができていたってことに初めて気づいたというか、クリエイティブの現場の空気が崩れ始めているっていうのは、すごく感じます。

田川:ちなみに僕は、これまで昼休みが1時間であることに疑問を持ったことがありませんでした。でもそれは、オフィスという前提があったからこそ。そこでTakramでは12時から14時まで、強制的に昼休みの時間を確保することにしました。外を走ったり買い物に行ったり、ペットと遊んだりすることで、運動不足や鬱々とした気分を解消できる。これは全国のみなさんにおすすめしたいコツのひとつです。

谷尻:僕は広島に戻らなくてよくなったので、子どもと仲良くなりました(笑)。事務所のことをいうと、みんなの健康が心配なので、朝体温を測って報告しあうグループをつくっています。20代の体温が低いので「免疫力が落ちるから、ちゃんと湯船に浸かりなさい」なんて言って。

田川:お母さんみたい(笑)。

谷尻:毎朝、報告し合うようになったので、むしろみんなの状況がよくわかっている。だからコロナに感謝している部分もあるというか、見つめ直すいい機会をもらいました。実際、ムダな打ち合わせが減ったし、移動もしなくてよくなって、その間にいろんなことが仕込めているので。

もし建築家が建物をつくらなかったら

田川:「コロナが収まったら、以前のワークスタイルに戻りたいですか?」っていうアンケートをとったら、誰一人手を挙げなかったんです。だから僕らは、コロナがピークを過ぎても、少なくとも元の働き方には戻らないだろうなと思っていて。

谷尻:そうですよね。

田川:世の中が、この状況をとにかく元に戻したい人たちと、これを機に変えていこうという人たちの2つに分かれていますよね。でも僕は、ある日突然エイリアンがやってきて違う世界線に進んでいくSFのように、コロナがなかったらありえなかった未来に向かっている気がして。

徳田:隕石が落ちて恐竜時代が終わった、みたいな。映画『ジュラシック・パーク』に「Life will find a way(生命は生きる道を探す)」というセリフがありますが、あのとき生き残った恐竜は鳥になり、一番小さかった哺乳類が繁栄しました。もう一度哺乳類に戻るじゃないけれど、できるだけコンパクトにすることも必要かもしれません。

田川:どういうふうにチェンジすれば生き残れるのかっていうフォーマットの提案は、この2~3カ月で、かなりアグレッシブにやっていかないといけないでしょう。

谷尻:まずこれから、間違いなく労働収入が減りますよね。それからオフィスがなくていいってことは、僕らは設計依頼をされなくなるってことでもあって。依頼がないのに設計事務所が生きていく方法を考えるタイミングなんだなと話しています。

田川:めちゃくちゃポジティブ!

谷尻:飲食店も同じで、お客さんが来なくても売上を上げる方法をどう考えるか。もちろん不安はゼロではないですけど、ちょうど僕、今年で20周年なので、リセットボタンを押してもう1回スタート、みたいな気持ちでやろうと思っています。

徳田:もちろん急に“グランドオープン世の中!”みたいなことはないと思うんですが、「やっぱり居酒屋っていいよなあ」とか「映画館でポップコーン食べたいなあ」とか、場のすばらしさに、みんながもう1回気づくんじゃないですかね。

田川:久々じゃないですか、人工物のリセット。アメリカでは今、ドアノブを触るのが危ないっていうことで、肘や足で開けられるアタッチメントが流行っているんです。手で握っちゃダメって決めた瞬間、今までのドアノブは全部最適解ではなくなる。密集しちゃいけないという前提だと、オフィスや家も変わりますよね?

谷尻:雨はしのぎたいから屋根は欲しいけど、窓はいらないんじゃないかとか。暑ければ冷水を流して、寒かったら焚き火をするとか。僕はよくキャンプに行くんですが、いつも「ここがオフィスだったらいいな」って思うんです。最近は、外部も含めて生活の一部にすることをもっと提案できないかなって、ずっと考えています。

徳田:日本には縁側っていう文化もありますから。あれは最強の換気だし、最強のインプットスペースじゃないですか。

田川:今は世の中を成り立たせてきた前提が大きく揺らいでいて、これまでの正解を一旦忘れる必要がある。そう考えると...

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