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青山デザイン会議

地域を活性化する活動と新しい「仕組み」のつくり方

青井 茂、佐久間智之、林 篤志

人口減少や大都市への一極集中が進み、もはや自治体や行政だけでは解決できない課題が生まれるなかで、持続可能な「地方創生」や「地域活性化」が模索されています。前回に続いて、リモートで行われた青山デザイン会議に集まったのは、「地方創生から地方覚醒へ。」をミッションに、富山の魅力を再発見し世界に発信していくまちづくり会社「TOYAMATO」を設立した青井茂さん。埼玉県三芳町の公務員として、ハロー!プロジェクトとのコラボなど斬新なプロモーションを手がけ、行政広報デザイナーとして活躍する佐久間智之さん。「ポスト資本主義社会の具現化」を掲げ、地域社会と関わりながら、各地でさまざまなプロジェクトを行う「Next Commons Lab」の林篤志さん。コロナ問題をきっかけに大きく変わっていく暮らしや地域との関わり、そして今求められる新たな“仕組み”とは?

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都市と地方の二項対立はもうやめよう

林:「Next Commons Lab」(以下、NCL)は、いわゆる地方・過疎地といわれるところにある地域資源を活用して、地域の課題を解決しながら新しい仕事や暮らしを実現するプロジェクトです。2015年にスタートして現在、国内12拠点、台湾1拠点とネットワークを広げています。

青井:私は祖父が創業したアトムという不動産会社を経営しています。今年の1月には、祖父の地元の富山で、地元の新聞社と千葉ロッテマリーンズの石川歩選手と一緒に「TOYAMATO」という会社をつくって、不動産に食やアートなどをかけ合わせたワクワクづくりをしています。

佐久間:埼玉県の三芳町で18年間、公務員として働いていました。自治体広報紙のコンクールで日本一になった経験もあり、今年の2月に独立して、さまざまな自治体で行政広報のサポートをしています。

林:NCLは「ポスト資本主義社会の具現化」というミッションを掲げていて、いわゆる「地方創生」という言葉で表現してしまうと、本質とはズレてしまうなと感じています。そもそも都市と地方の二項対立は、そろそろやめないといけない。今回もリモートで対談しているように、かなりフラットになってきていますし。

青井:私もふだん、東京と富山を行ったり来たりしていますが、何の違和感もなく仕事ができています。

林:一方で自治体は、これまで「定住人口の取り合い」をしてきました。そもそも日本の人口が減っているのに、限られたパイを奪い合っても仕方がないわけで。

佐久間:これからは自分の好きな場所を決めて、そこで仕事をするのがスタンダードになるでしょう。そのとき重要になるのが、僕は「地域の魅力」だと考えています。その地域に住む人も遊びに来た人も、その場所に関心を持ってファンが増えていく仕組みができれば、地域は活性化する。その入り口が、僕の場合は広報紙だったわけです。

青井:まずは地元の人たちを魅了して、長く住んでもらうという考え方ですか?

佐久間:そうですね。ただ残念なのは、灯台下暗しというか、せっかくの魅力に気づいてない人が多いこと。もっと言うと、関心を持たないっていうのが問題かなと。たとえば三芳町にはホタルが飛んでいて、僕はそれを町の大きな魅力だと感じていたのですが、地元の人からすると「そんなにすごいことなの?」みたいな。

青井:地方の“あるある”ですね。

佐久間:だから僕は、ファンをつくって、ファンの人たちが自走していけるような広報を目指しています。

青井:ストーリーの紡ぎ方と、誰から、どういう媒体から知るかはすごく重要ですよね。こうやって佐久間さんから話を聞くと「行ってみようかな」となりますし。

佐久間:僕は昆虫が好きで、小さい頃、デパートでタガメを2万5000円で買ったんです。でも、地方では稲を荒らす害虫みたいな扱いで。そういう、人によってはお金を出してでも欲しいと感じる“ダイヤの原石”は、全国どこにでもあるはず。僕はタガメツアーがあったら絶対行きますよ(笑)。

青井:昔は情報の非対称性があったけれど、今は検索をすればつながれる時代ですから、発信することが重要ですね。

佐久間:「タガメなんて・・・・・・」って思ってしまうと発信すらしないので、まずは気づくこと。コロナ渦で、これまで当たり前のことが当たり前でなくなったからこそ余計に、なんでもないものが価値になる時代がやってくる気がします。

青井:みんなで居酒屋に行くとか、カラオケをするとか。

林:おっしゃるとおり、コロナ以降は相対的にリアルの価値が上がっていくはずですから、地域のフィジカルな価値を、いかに高めていくかが論点になるでしょうね。

地方の価値観は、doingではなくbeing

林:地方の可能性って何かというと、圧倒的なのは創造性の余白。東京で何か新しいことをやろうとするとお金がかかるし、競争も激しい。でも地方には土地や空き家が余っていて、低コストでチャレンジできる。コロナをきっかけに働き方が変わっていくのであれば、創造性が掻き立てられる場所や、面白い人たちが集まるコミュニティを選ぶ方向にシフトしていくはず。

青井:不動産の仕事をしていても、「これから東京で暮らす意味って何だろう」と考えてしまいます。一方で、緊急事態宣言が明けたら、またみんな満員電車に乗って会社に行くんだろうなという気もして。

林:地方における価値観も同じで、やっぱり“doingじゃなくてbeing”なんです。10年ほど前、高知県の旧土佐山村という人口1000人の村で活動していたときの話ですが、地域の草刈りの日に出張で不在にしていると「あいつはどこに行った?」となる。お世話になった方から「あそこの家に電気を灯し続けるのがお前の価値だ」と言われたのが、すごく印象的で。

青井:これまで地方で暮らすのはアーリーアダプター的な人が多かったと思いますが、経営者を含めてみんなに、新しい時代に向かっていく意識が必要ですよね。

林:ここで変わらなかったら無理、僕は最後のチャンスだと思って見ています。

青井:よく「よそ者、若者、ばか者」が町を変えるなんて言うとおり、私のような外のプレイヤーが入っていくことで、地域に刺激を与えられるという実感はあります。

林:そう、ずっとそこにいなくても地域に貢献している人はいるわけで、そういう人たちも含めて地域コミュニティだと認めてもらえる仕組みをどうやってつくるか。僕自身、1カ所に永住するつもりはなくて、立ち上げが終わったら、運営が得意な人に引き継ぐスタンスなのですが、どうしても「あいつはもうここには興味がないんだ」みたいに話になってしまいがちで。

佐久間:いろいろな意味で、今回のコロナがターニングポイントになってほしいですね。公務員にしても、これをきっかけに旧態依然のやり方を変えていかないと。

青井:佐久間さんなんて、公務員の中では、だいぶ浮いた存在だったのかなと想像するんですが・・・・・・。

佐久間:浮いた存在ではありましたが、理解はあったかなと思います。ハロー!プロジェクトと仕事をしたときも、「アイドルと自治体がコラボするなんて」と言われましたが、僕はごりごり進めて(笑)。

林:コロナの対応にしても、首長のリーダーシップにかなり差が出たなという印象がありますよね。

青井:そうした対応が今後、移住をするインセンティブにもなる気がしました。

佐久間:まさにリトマス試験紙ですよね。かつてはパズルのように正解があって、それを目指していけばよかった。でも、これからは公務員もクリエイティブにならないと、日本全体がダメになってしまう。

青井:行政と話をしていても、「前例がないからやめましょう」となるところもあれば、「そこまでやってくれるんだ」というところもある。その差は、やはり“人”なのかなと。

佐久間:行政はどうしても...

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