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青山デザイン会議

「応援消費」を後押しするコミュニケーション

北原成憲、高橋博之、並河 進

ここ数年ムーブメントになっている、クラウドファンディングをはじめとする「応援消費」。さらに、コロナ禍を受けて窮地に陥った生産者や飲食店を支援しようという動きが加速、共感できるものにお金を使いたいと考える消費者はますます増えています。

今回、青山デザイン会議に集まってくれたのは、新しいものや体験の応援購入サービス「Makuake」で、クリエイティブディレクターを務める北原成憲さん。生産者がオンライン上で直接、旬の食材を出品・販売する「ポケットマルシェ」代表の高橋博之さん。そして、ネピアの「千のトイレプロジェクト」やヤフーの「3.11 検索は応援になる」をはじめ、社会と企業をつなぐソーシャルプロジェクトを数多く手がける電通の並河進さん。なぜ今、「応援消費」が広く人々の支持を集めるのか、またそうしたムーブメントを後押しするコミュニケーションや表現とは?

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コロナと「応援消費」の今

高橋:東日本大震災をきっかけに「東北食べる通信」という食材付きの情報誌を創刊して、40カ所ほどに展開しています。「食べ通」は、月に一度だけなので、もっと日常の食生活に入り込みたいということで、2016年から「ポケットマルシェ」というオンラインマルシェも始めました。

並河:僕は、2005年くらいから「ソーシャルデザイン」という領域に取り組み始めて、今も続いているのが、王子ネピアの「千のトイレプロジェクト」。最近では、日本赤十字社の「ウイルスの次にやってくるもの」という動画を制作しました。

北原:Makuakeという会社で、クリエイティブ全般の監修や、さまざまな企業の新製品開発プロジェクトの伴走をしています。Makuakeはクラウドファンディング会社として始まり、現在では、新しいものや体験が応援購入できる場所として、日本で一番大きなプラットフォームになっています。

並河:やっぱり、コロナをきっかけにサービスを使う人は増えているんでしょうか?

北原:はい。プロジェクト数も会員数も伸びていて、つくったものを消費者に直接届ける、“0次流通チャネル”として活用したいという実行者さんも多いですね。

高橋:ピーク時には、1日の注文数がコロナ前の20倍、ユーザー数が4倍、生産者の登録数も1.5倍くらいに増えました。

並河:東日本大震災のときは支援する側とされる側がはっきりしていて、応援しようというムーブメントがつくりやすかったのですが、コロナ禍ではみんなが当事者なので、また状況が違う気もして。

北原:マスクや除菌系のプロジェクト目当てで会員になった方々が、別のプロジェクトをリピートしている様子も確認できています。アクティブユーザー数も右肩上がりで、応援購入や応援消費が世の中のマインドとして根付いてきているのを感じます。

高橋:今回、特徴的だったのは、応援のベクトルが双方向から生じたということ。外に出られなくなった消費者を応援しようと、なめこ栽培キットや納豆づくりキットといった、家の中で家族一緒に楽しめる商品を出品する生産者も多くいました。

北原:Makuakeでも、繊維業者さんがリモートワーク用のウエアを企画するなど、このような環境下で、消費者の暮らしを豊かにする商品をつくろうという動きが見られました。実行者とサポーターが応援し合っているのを、私も肌感覚で感じています。

高橋:もうひとつは、コロナ前からの生産者と消費者のつながりが遺憾なく発揮されたということ。東京で一時、買い占めが起きたとき、お客さんへ肉や野菜を無料で送ってくれた生産者さんもいましたし、逆に生産者さんには「これを着けて頑張って」とマスクが届いた、なんて話もありました。

北原:単に買うとか売るだけではない、つながりが生まれていますよね。

高橋:消費って「費やして消す」と書きますが、これはもう消費とはいえないのでは、というくらいの関係性になっている。

並河:僕はコロナは、一時的かあるいはもう少し長く続く「ルール変更」だと思っています。そのルールが、オフラインの顧客接点しかなかった企業に非常に不利になっているのを感じていて。

高橋:まさに、オフラインを主戦場にしていた生産者が苦境に陥りました。一方で日本人の胃袋の数は変わらないので、飲食店がダメなら個人に届けようと、重い腰を上げた人も多いですね。三重県で真鯛の養殖をしている漁師さんも、初めは「この時代に、丸のままの魚なんて売れるのか」と言っていましたが、5000尾以上も売れて。

北原:Makuakeで話題になったのは、プロがつくった茹でダコと、自分が家でつくった茹でダコが食べ比べられるセット。「自宅で100年の味を超えてください」といって、良質なタコと秘伝のレシピのセットをお届けするプロジェクトです。

高橋:時短料理から“時長料理”に変わっているんですよね。包丁を買ってきて初めて鯛をさばいたとか、お食い初めに使ったとか、今までは忙しくこなすだけだったところに食が入り込んでいった印象があります。

並河:これまでは売れないと思われていたものも、実は今の生活にぴったりハマって、しかもプロセス自体を一緒に楽しむ空気が生まれている。面白いなあ。

    Makuake'S WORKS

    Makuake
    2013年にサービスを開始した、新しいものや体験の応援購入サービス。プロジェクト実行者がサポーターと直接つながる「コミュニティラボ」機能などを備え、毎月300件以上、累計8000件以上の新製品・体験が生まれている。

    茹でダコプロジェクト(金楠水産)
    2時間半で目標金額に到達した、明石産「究極の茹でダコ」が味わえる人気プロジェクト。第2弾は、職人の茹でダコと、購入者が自宅で茹でたタコが食べ比べられるセット。

    冬単衣(SHARP×石井酒造×MIS)
    シャープの液晶技術から生まれた“適温蓄冷材”搭載の「-2℃で味わう日本酒」。日本酒を氷点下にキープする保冷バッグと純米吟醸酒のセットで、雪がとけるように味わいが変わる「雪どけ酒」を楽しめる。

    VISOURIRE(ライオン×MIS)
    120年以上にわたり口腔衛生の普及に取り組んできたライオン初の美容家電。親指の形を模したシリコンヘッドにより、頬の内側から音波振動を与えることで表情筋にアプローチし、美しい笑顔に導く。

    KINUAMI(NITTO CERA×モリタグループ×MIS)
    消防車の泡生成技術をシャワーヘッドに応用した、全身泡パックシャワー。本体に専用のトリートメント剤を入れ、シャワーヘッドからきめ細かい泡を放出、天然シルク由来成分が肌に潤いを与えてくれる。

    A-RROWG(NEC×FiNC Technologies×MIS)
    NECの歩行分析技術を使い「歩容≒歩行の質」を計測可能にした歩行センシングインソール。FiNC Technologies監修の専用アプリにより、理想的な歩容のアドバイスやトレーニングメニューも提供する。

重要なのは、コモディティ化しないこと

高橋:一次産業の世界では「産地とか生産者のこだわりはどうでもいいから、とにかく安いものを」という、行き過ぎたコモディティ化が進んできました。それは戦後の貧困時代には合理的だったのですが、今は年間600万トンも食べ物を捨てている時代なので、むしろ弊害が目立っている。

並河:オフライン接点って、コモディティ化をさせない有力な方法論のひとつですが、それが今はなかなか難しい。もちろんコロナもあるけれど、大きな時代の流れとして、オフラインに匹敵する体験をどうやってつくっていくかが重要ですよね。

北原:ちなみに、Makuakeの応援購入ランキング第1位は、テスラにも充電できる大容量のポータブル電源で、2位はマスク除菌ケースなんです。昨今の豪雨災害やコロナといった世の中の状況を反映して、一人ひとりのユーザーに「こういうシーンで使える」というイメージを明確に想像していただけたからこそ売れたプロダクトですね。

高橋:ポケマルで売れるのは、「俺は岩手県花巻市の◯◯という人間で、こういう想いでつくっている」と伝えられる生産者の商品。おいしいのは大前提で、いかに唯一無二であるかを表現できる人が強い。

並河:その通りですね。僕も最近、積水ハウスの「おうちで住まいづくり」という、オンラインで住宅づくりを進められるサービスのお手伝いをしていますが、とにかくスタッフの顔を出していこうと話しています。

北原:私たちは「100人に1人でいいから、欲しいではなく、買うと言ってくれる人を見つけてください」と言っています。買ってくれるターゲットを意識して、ニッチでもいいから、その人にとってどんな価値があるのか、きちんと言語化することが重要で。

並河:コモディティ化に対して、どんな価値を付加するか、世の中にないものを提供するのもそうだし、顔が見えるのもそう。

北原:もちろん大前提として独自性は必要ですが、機能や性能だけを語ってもピンとこない。それを価値に翻訳できないと、この時代に広く受け入れられるものにはならないんだろうなと感じます。

高橋:あとは、なんだかんだいって...

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