『BRUTUS』が創刊40周年を迎えたと耳にした。そう言えば、ある編集者とおしゃべりしていて「コロナ問題の渦中で、『BRUTUS』が『いつか旅に出る日。』と謳った特集を出したのはさすが」と聞いたばかり。これは良いきっかけと、編集長の西田善太さんにお会いした。

2000年11月15日号「約束建築」。特集の前に綴じこんだ応募用のハガキが、読者の見る目をぐっと惹きつける。「校了直前に掲載する家の図面を追加することになって。苦しかったが思い入れのある号」(西田さん)。

「BRUTUS」40周年特設サイト。
人の平衡感覚を信じたい
銀座のマガジンハウスの編集部は適度に雑然としていて、以前に訪れた時の空気感は相変わらず。デスクを立って迎え入れてくれた西田さんのオーラも健在だ。最初にお会いした時、このオーラに気圧されたものの、西田さんが気配を察し、笑顔で気持ちをゆるめてくれたと思い出す。
まずはコロナ渦中で、さまざまな人に聞いた質問から──今回の一件で、変わったことについて聞いてみた。リモートで働ける体制を整えている最中に緊急事態宣言が発令されたので、在宅ワークへの移行は、思いのほかスムースだったそう。そして何かが変わったというより、「人の平衡感覚を信じたいと思います」と西田さん。
本質を見極め、変わるものと変わらないもの、必要なものと不必要なものなど、極端に振れることなく最良の平衡点を見出すことが肝要だと。その眼力があるからこそ、『BRUTUS』の編集長として、知りたい、読みたいと感じさせるテーマを発信し続けてきたのだと納得。とともに、“変わる”、否“変わらねば”と偏向していた自分の姿勢を顧みて、少し恥ずかしくなった。
西田さんが大切にしているのは「その場にいたい、この目で見たい、誰かれかまわず話したい、そしてウケたい」ということ。ライター稼業をしている私にも、この話にはリアリティがある。好奇心を抱くと現場にいって取材したくなるし、おもしろさに出会うと誰かに伝え、喜んでもらいたいという欲求が湧いてくる。ただこれ、編集者やライターだけが持っている特性かというとそうでもない。
他の仕事においても、新しいアイデアを発想したり、独自のプランを練ったりする時、現場を見聞きしておもしろさを抽出し、人にウケてもらえることは大事。自分事としての物差しを持つことが、平衡感覚につながっていくのではと思いいたった。
ストーリーのある特集を基軸に
40周年を記念して立ち上げた...