いま世の中で話題になっているCMを作っている人たちは、どのように企画を考え、映像を作り上げているのだろうか。今回は、インディードを手がける中村英隆さんです。
建築と広告の構造は似ている
足立:中村さんの経歴を拝見すると「一級建築士」の資格に目がいきます。
中村:入社3年目のときに取りました。もともとは建築家になろうと思っていたんです。でも、2000年当時は建築業界が不況だったこともあり、まずは違う仕事をしてみようと電通に入社しました。
足立:現在も電通で活躍しているということは、広告業界が合っていた?
中村:実は広告と建築って構造が似ているんです。基本はクライアントのお金と自分のクリエイティビティで課題を解決する仕事です。僕は学生時代に与えられた諸条件から課題を発見し、建築以外の方法も含めてどう解決するかという訓練を受けてきたこともあり、広告の仕事が自分に合っていたんでしょうね。課題解決で誰かを助けたり、人に喜ばれたりすることが次の仕事へのエネルギーになり、気が付いたら20年経っていました。
足立:なるほど。そうすると、電通入社後も苦労はあまりなかったですか?
中村:最初の2年間は辛かったです(笑)。20年前は、企画はTheコピーライティング、The CMプランニングから始まるので、コピー100本、企画100本を出すことが当たり前でした。当時、ある飲料会社の味コピーをひたすら書き続けていましたが、大学時代の数年でいろいろトライした量に比べて、社会人になってからの数年は同じことの繰り返しで。意味がある時間を過ごしているのかと不安になったりもしました。
でも、今振り返るとそれがよかったんですね。中途半端にいろいろなことに手をつけるよりも基礎を徹底的に身につけたことで、それが自分の血肉になっています。僕は学生時代、文章を書くのが苦手でしたが、今はボディコピーも普通に書けますから。
足立:これまでに転機はありましたか?
中村:入社5年目に、関西電通へのインターン制度が始まり、僕は1期生として2年間行きました。配属されたのが中治部で、中治信博さん、石井達矢さん、山崎隆明さんなど、関西電通の面白い人が集まっている部署でした。当時、山崎さんはホットペッパーのCMをつくっていて、ビデオを何回も再生しながらアテレコするところを目の前で見ることができたんです。関西電通の日々は面白かったし、広告とはこういうものかと前向きになれる体験になりました …