「ISSEY MIYAKE WATCH」は、この6月、新しいモデル「1/6(ワンシックス)」を発表した。シリーズの18番目を担ったデザイナーは田村奈穂さん。大胆でありながら繊細、ダイナミックでありながらたおやか──彼女の仕事ぶりが以前から気になっていたので、ニューヨーク出張の際、アトリエで話を聞いた。
"秤"をイメージした機械式ウォッチ
最初に田村さんとお会いしたのは、ミラノサローネのレクサスでの展示だった。3名のクリエイターによる構成だったのだが、心惹かれたのは田村さんの作品──二次元だけでなく三次元で動くように、精緻な工夫と造りがなされたオブジェ。部分的にうっすらと青みを帯びた半透明の円盤の群れが、純白の空間の中でたゆたっている。
人の動きから生まれる空気の流れが円盤を動かし、それが連鎖し、呼応することで全体が揺らいでいる。「自然にあるすべてのものは、絶妙なバランスを保ちながら存在する」という田村さんの意図が、身を置いているだけで身体と心に響いてくる。長時間佇んでいたくなる空間だった。
田村さんは、ニューヨークのパーソンズ・スクール・オブ・デザインを卒業し、工業デザインを専門とする「スマート・デザイン」に籍を置いた。その後、日本での活動を経て再びニューヨークに。現在はブルックリンのスタジオを拠点として、アルテックやナイキをはじめ、世界のさまざまな企業と仕事している。ご本人は、ファッションも挙動もどちらかというとボーイッシュなのに、透明度の高い女性らしさとエレガントな品性を備えている──不思議な魅力の持ち主だ。
そんな田村さんがデザインした腕時計が「1/6(以下、ワンシックス)」。"秤"をイメージした機械式ウォッチということで、文字盤の大半を緻密なメモリが占めている。大ぶりなので、女性が着けると手首を覆うほどのボリューム感──はっきりした個性を感じさせながら、変に主張せずに佇んでくれる──デザインのルーツや過程はどこにあったのか …