4月に開催されたミラノサローネでは、例年通りに出展者を取材して歩いたのだが、強く印象に残ったひとつはTAKT PROJECTだった。電車の高架下に広がる空間を活かした展示に心がぐらり、デザインの醍醐味はここにあると感じたのだ。どんな仕事を手がけているのか、じっくり話を聞こうとオフィスをたずねた。
仕事の3割くらいを基礎研究にあてる
東京のどちらかというと東側、白山駅を降りてすぐのところにTAKT PROJECT(以下 タクト)のオフィスはある。古いビルの4階まで階段を上り、扉を開けるとゴールデンウィーク中にもかかわらず、オフィスに出ている人も。全体にやわらかい空気が漂っていて、居心地の良さが伝わってくる。
代表を務める吉泉聡さんのお話をうかがったのだが、もともと吉泉さんは機械工学を学び、デザインに関心があって桑沢デザイン研究所に通っていた。そこでネンドの佐藤オオキさんと出会い、ネンドで仕事を重ねた後、ヤマハでデザイナーを務めたという。それから仲間3人と一緒にタクトを立ち上げた。卓越したデザイナーの仕事と、良質なメーカーの仕事を体得してから、事務所を立ち上げたという経緯を聞いて、賢い道を選んだのだなあとつくづく。デザインを生業とするには、アイデアや美意識といった感覚的な要素と、企業の論理を背景に置いた理論的な要素と、どちらも欠かせないからだ。
「小さいながらも基礎研究していくことが重要と思ったので、業務の3割くらいは、クライアントの仕事ではなく、自分たちで新しい価値や視点を探る自主的な提案をやっています」と吉泉さん。何やらおもしろそう、どんなことをやっているのか聞いてみた …