2018年10月、虎屋が本店格とも言える「とらや 赤坂店」をリニューアルオープンした。それに先立つ7月、外苑前にある「Itochu Garden」の一画に「TORAYA AOYAMA」も登場。いずれも、新しい試みが盛り込まれた場になっている。
赤坂に登場した低層ビル「とらや 赤坂店」
「とらや 赤坂店」は、従来の重厚感のある建物から一新され、木をふんだんに使った軽やかな佇まいに──地下1階から3階までの建物で、従来に比べると高さは低いのだが、青山通りの御所前というロケーションにふさわしい上質さを放っている。ただ、当初の事業計画はそうではなかった。法律の許容範囲である10階建てで、計画は進んでいたという。店舗とオフィスのほか、スペースに余裕があれば賃貸することも見据えてのプランだった。
ところが副社長をはじめとする若手チームから、「低層階にした方がいいのでは」という提案が出てきた。そこで改めて、「時代に求められる店のすがたはどこにあるのか」を見つめ直したという。これからは、規模の大きさや豪華さではなく、人の心に根ざしたものが大事になってくる──自然に触れる、ほっとする、温かさを感じる、ゆっくりできるという判断から、低層の建物に変更したのだという。
オリンピックに向け、各所で大規模な開発が次々と進められているが、いずれもが高層ビルばかり。低層階にショップが入り、上層階に映画館やオフィス、あるいはホテルが入っている。念入りなマーケティングと事業計画を検証しながら作ったものなのだが、お客として訪れると、どこも同じように見えてしまう。しかも、それぞれの店に接客してくれる人がいるにもかかわらず、人臭さが拭われて無機質な感じが漂っている。再び訪れてみたいという気持ちが薄まってしまう。もったいないし残念なことと感じてきた …