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【グラフィック’80ー’90】慣習に捉われない発想で広告の常識を塗り替えた時代

加藤建吾(TUGBOAT2)、古平正義(FLAME)、田中 元(電通)

80~90年代の回には同世代の3名のアートディレクターが登場。TUGBOAT2の加藤建吾さん、FLAMEの古平正義さん、電通の田中元さんが、当時の広告と、それぞれの出会った時の心境を語り合った。

「大貫卓也さんは僕の"神様"だった」(田中)

古平:僕たち3人が選んだ1980年代後半から90年代までの広告を年代順に発表します。最初はコピー秋山晶さん、アートディレクション細谷巖さんのジャックダニエルの広告です。80年代の後半、それまでのようなコピーが主役の広告が減り、ファンタジックな言葉で夢を売る広告をちょっと恥ずかしいと感じるようになっていた頃だと思います。この広告は、そんな流れを反映しているのではないかと…。

田中:僕は浪人中にこの広告を見ました。大学に入ってからも、当時話題だったこのシリーズを見て勉強していました。まだ写植の時代ですよね。若い人は知らないと思いますが、この頃は写植屋さんが文字を1つひとつ並べて打っていたんですよ。デザイナーは文字間、行間、文字の太さなど細かく指定を出して、写植屋から上がってきたら、それをまた切り刻んで文字詰めし直すという過酷な作業をしていました。このレベルの文字詰めは大変だったしょうね。

加藤:僕はベネトンの広告を挙げました。ブランドタグラインは「United Colors of Benetton.」で、心臓に人種による色の違いはないことを示す写真や、黒人の女性が白人の赤ちゃんに授乳する写真でシリーズ広告を展開していました。人種差別や民族間の戦争は関係ない世界の話ではないんだというメッセージが込められています。今も人種問題はありますが、当時はもっと強かったから、この広告はセンセーショナルでした。

田中:シンプルなビジュアルとコピーを置かないインパクトも強かった。それによって世界共通で通用する広告になっています。

加藤:ジャックダニエルの後にこういう時代が来るのが鮮烈でした。

田中:次はラフォーレの広告で、僕の神様、大貫卓也さんのアートディレクション。僕はこのとき電通入社5、6年目で、大貫さんのいる博報堂も電通も同じ広告会社なのに、なぜこんなに面白いことができるのかと、大貫さんの仕事を研究しまくっていました。研究して好きになりすぎ、逆にいなくなればいいのにと思うくらいに(笑)。本人と直接交流する機会がなかったので、当時大貫さんと仕事をしたカメラマンを自分の仕事にアサインして、根掘り葉掘り話を聞いたりしていましたね。

加藤:大貫さんは僕らの世代のスターです。マニアの元さんから見て、大貫さんと時代性の関係ってどう思います?

田中:大貫さんは最初"面白い人"だったんですよ。としまえんの「プール冷えてます」や「史上最低の遊園地。」などから始まって。そこから"カッコ面白い"を経て最後にカッコよくなって。総じて写真のトーンはアートっぽいけど、誰からも好かれる広告が作れる人なんです。うちの母親でさえ大貫さんの作ったCMの曲を口ずさんでいたくらい。なのに、ラフォーレみたいに若者に好かれる広告も作れる。そこがすごいんです。

加藤:時代性は関係ないということ?

田中:大ありです。この時期にあえてこれをやろうと逆張りしているんですよ。

加藤:そうですよね。大貫さんってその時期ごとに世の中に受けることを見定めて、表現を変えている。そういう感度が特別高い人だと思います。

古平:大貫さんは、一貫してクオリティがすさまじく高いんですよね。有名な話で、ロゴの大きさを1ミリずつ変えて100種類ぐらい壁に貼って検討するというのがありますよね?としまえんの「プール冷えてます」も一見、ゆる~く見えるけど、実は自分の部屋に貼っておきたくなるくらいクオリティが高い。それがすごいところだと思います。

田中:この前、大貫さんとついに飲むことができたんですよ!夢のような時間でした。大貫さんの仕事は、カメラマンが白鳥真太郎さん、狩野毅さん、ハーブ・リッツと全部違うから「カメラマンはどうやって選ぶんですか?」と聞いたら、「誰でもいいんだよね。僕は自分で管理できるから、トーンを合わせてもらえれば。ただ、うまい人がいいよね」と言っていました。

カメラマンを決めてから企画を考えるタイプのアートディレクターもいますが、大貫さんはそうじゃないんですね。メルシャン(三楽)の「ローリングK」の広告でも、当時世界一ギャラが高いと言われていたハーブ・リッツに頼みながら、上がりを見て「何か違う」とデザインで手を加えたという話もあるくらいですからね。

古平:ADC賞の審査を大貫さんと一緒にしていると、ものすごくロジカルに積み上げるのに、ある時突然ぽんっとぶっ飛んだことを言い出して、周りを戸惑わせたりするんです。そういうところが面白いんですよね…。

田中:ロジックとある種の天然さが同居しているというか。だからハーブ・リッツの写真もいじれるんでしょうね。って、神様にえらそうですね、失礼しました。

サントリー「ナッシュビルの南。」新聞広告

  • 企画制作/ライトパブリシティ
  • CD+C/秋山晶
  • AD+D/細谷巖
  • PR/吉田芳昭
  • 撮影/藤井保

Breastfeeding
Copyright 1996 Benetton Group S.p.A.-Photo:Oliviero Toscani

  • AD+撮影/オリビエロ・トスカーニ

三楽「ROLLING-K」ポスター

  • 企画制作/博報堂
  • SCD/宮崎晋
  • CD/笠原伸介
  • AD/大貫卓也
  • C/谷山雅計
  • D/内田邦隆、渡辺智彦
  • 撮影/ハーブ・リッツ

ラフォーレ原宿「NUDE OR LAFORET.」

  • 企画制作/大貫デザイン
  • CD+AD+C/大貫卓也
  • D/荒井靖斗、大谷知帆
  • C/横道浩明
  • 撮影/白鳥真太郎

「Think different.」「Just do it.」の登場

加藤:次は佐藤可士和さんが博報堂時代に作ったホンダのインテグラの広告です。新聞で30段広告を見たんです。インテグラと書いてあってブラッド・ピットが出ているから、インテグラの広告かと思いきや、右側が映画『SEVEN』のプロモーションになっている。いまはコラボレーション広告も普通になりましたが、この頃はまだ珍しかったし、コラボしてもだいたいどっちかがパワーバランスに負けてしまうものです。でも、これはちゃんと融合しているし、同じトーンで押し切っている。この完成度、仕掛けてやった感が強く印象に残りました。

田中:僕も驚きましたよ。僕が予備校生の時、多摩美術大学の学生だった可士和さんがアルバイトでデザインを教えに来ていて、僕は可士和さんの卒業制作を見ていたんです。だから、この広告を見た瞬間に可士和さんの広告だとわかりました。ロジックというよりも、パンク好きな可士和さんの感覚で作ったアートのように感じました。

加藤:この頃、車の広告は必ず7:3の構図(車の正面と側面が7:3になる角度の写真)を求められていました。その中でこれを出したのがすごいんですよ。次に挙げるのも車の広告で、VOLVOの広告です。安全ピンで車の形を作るという表現ですが、こんなにも簡潔な表現があるのかと驚いて。

古平:これはなぜ安全ピンが外れてるんですか?そこがよくわからなくて…。

加藤:それ自体に深い意味合いがあるわけではないようで、僕の解釈では、安全ピンをわかりやすく表現したかったのだと思います。カンヌをはじめ世界の広告賞を多数獲っていることからも、世界共通で通じる表現になっていたんじゃないでしょうか。

古平:当時はワーゲンの広告のように白バックに車がドンと置かれている昔ながらの表現が多かったですからね。次は僕が独立した1997年に出たアップルの広告「Think different.」です。当時、アップルはIBMに押されて業績が低迷している時で、一度会社を去ったスティーブ・ジョブズが戻ってきて、このキャンペーンが始まったんです。

日本もデザインや広告の業界ではMacが主流でしたが、世の中はWindowsが全盛でした。その中で「Think different.」、つまり人と違うことをやろうと言ったんです。僕を含めてクリエイターがこのコピーを好きなのは、アップルの広告でありながら、自分たちの気持ちを鼓舞してくれるような気持ちになるからだと思っています。

加藤:ピカソやアインシュタインが出てきて、「クレイジーな人が世界を変える」というコンセプト。突き抜けていますよね。それまで僕は、お金や時間をかけるほどいいものを作れると思っていたんです。でも、借り物の写真で広告は成立するんだとこれで知りました。

古平:そうなんです。僕は当時ニューヨークでピカソの大きなビルボードを見たんですが、かっこいいなぁ、と…。日本人では黒澤明さんなどで展開されていたのもよく覚えてます。

田中:そう。でかいのがいい。僕も有楽町で手塚治虫さんがにこっと笑っている大きな広告を見ましたよ。当時すごい出稿量でしたね。このコピーとNIKEの「Just do it.」はみんな大好きで、いまだに超えられませんね。

ボルボ・カーズ・ジャパン 企業広告 新聞広告

  • 企画制作/電通ヤング・アンド・ルビカム(現 電通イースリー)
  • CD/川瀬稔
  • AD/沢正一

アップル「Think different.」ポスター

ステップワゴンの広告にみんな言葉を失った

加藤:次は僕が電通本社で働いていた頃、すぐ横の現場で作られていたトヨタのエコプロジェクトの広告です。いまの電通CDCの前身でクリエイティブ統括局という部署があり、佐々木宏さんら電通のエース級が集まってチームで取り組んでいたんです。この頃「エコ」という言葉が世の中に出はじめて、その流れの中でハイブリッドカーのプリウスが着々と開発されていた。いち早くそれを広告にしたのもトヨタです。ルーズリーフをモチーフにしたデザインで、下に「エコプロジェクト あしたのために、いまやろう。」とコピーが入るシリーズです。

田中:このデザインはいいですよね。シリーズ性が保てるし、緑のカラーもエコを表現しているとわかりやすいし。

加藤:アートディレクションは副田高行さんです。落ち葉が車の形をしていて、「また逢おうね。」というコピーで落ち葉が土に還る循環、つまりリサイクルを表現しています。ほかもコピーがいいんです。「鮟鱇とクルマは捨てるところがないといわれたい」と無駄がない作りを訴求したりして。覚えきれないくらいたくさんのシリーズがあって、それを社内の会議室を1つ潰してずっと作ってるんです。佐々木さんが「全然面白くない」と言いながら帰っていくのを見て、これは大変だ…と思っていました。

田中:車と言えば、ホンダのステップワゴンの広告です。当時僕らは電通でホンダを担当していましたが、この広告を新聞で見た時、社内がシーンとなり、誰もしゃべれなくなったのを覚えています。先ほど加藤さんが言ったような自動車広告の慣習に、僕らは苦しんでいました。なのにこれは車のカットがこんなに小さくて、それでいて雰囲気がよくて。僕もこっちの世界に行きたいと思いながら見ていました(笑)。

加藤:アートディレクションが可士和さんで、コピーが鈴木聡さんですよね。この「こどもといっしょにどこいこう。」というコピーがグッと響いて、プロダクトアウトじゃない発想がとても新しく感じました。

田中:僕らは「ファミリービークル」や「週末おでかけミニバン」などの車種規定ワードを考えてからキャッチを考えていたんですが、ステップワゴンの広告は世の中への提案がコピーになっているんです。なぜそこに頭を使えなかったんだろうとガックリしましたね。この写真がまたいいでしょう?当時、それを撮影したカメラマンに聞いたら、普通に写真を撮ってレイアウトしても最初のカンプのようなカラッとした感じがどうも出ない。

そこで、撮影前の確認用に撮ったポラロイド写真を引っ張り出してきて、裏面の紙を薄剥ぎしてライトボックスで透かしてみたと。そうしたら剥いだ紙のガサガサ感があいまって綺麗にふわっと見えて、それを複写して使ったと。超楽しい話じゃないですか?いまの人はPhotoshopでやればいいじゃないかと思うかもしれないけど、そうじゃないんですよ。

古平:みんなにそういう話をもっと知ってほしいよね。次は、「FSP」という化粧品ブランドです。1999年の広告で、パッケージも合わせて平林奈緒美さんがアートディレクションしていました。当時は日本語のコピーがあるのが当たり前だったし、商品のデザインも海外のブランドとは大きな隔たりがあった。この広告からは、そういう状況をひっくり返そうとする強い意気込みを感じました。

田中:平林さんは予備校の先輩なんです。平面構成という絵の具を使う課題が出ると、平林さんはいつも自分の好きなグレーやネイビーの絵の具を机に並べて、お題がどんなモチーフでもグレーやネイビーを使うんですね。僕はバカみたいに派手な色を使うんですけど、当時から彼女は好きな色、トーンがあって、自分の世界はこれだというものを持っていました。FSPの広告を見て、その頃と全く変わってない芯の強さを感じました。

加藤:ジャックダニエルの広告の写植の話から始まって、振り返れば、80-90年代はアナログとデジタルの端境期でしたね。

田中:僕らはそこを経験してどちらも知っている。面白い時代だと思いますよ。

古平:アナログの手法は、若い人たちも学んでみると面白いかもしれないですよね。実際はPhotoshopでやってもいいんだけど、バリエーションを知っているというのは強みになるから。

トヨタ自動車「TOYOTA ECO-PROJECT」ポスター

  • 企画制作/電通+副田デザイン制作所+E.
  • CD/佐々木宏
  • AD/副田高行
  • D/田中友朋、長谷川啓二
  • C/神谷幸之助、東秀紀
  • 撮影/村井眞哉

本田技研工業 ステップワゴン
「こどもといっしょにどこいこう。」

  • 企画制作/博報堂
  • CD/土井徳秋、島添育夫、藤井実
  • AD+D/佐藤可士和
  • C/鈴木聡、松井正徳
  • D/油井忠史、狩野毅

資生堂 FSP

  • 企画制作/資生堂
  • AD+D/平林奈緒美
  • D/丸橋桂
  • C/山本邦晶
  • 企画/吉田聖子
  • 撮影/石田東
  • ST/ソニア・パーク

TUGBOAT2 アートディレクター
加藤建吾(かとう・けんご)

1972年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。電通テック入社。2000年TUGBOAT2設立、2016年TUGBOAT DESIGN設立。

FLAME アートディレクター/グラフィックデザイナー
古平正義(こだいら・まさよし)

1970年大阪生まれ。アキタ・デザイン・カンを経て、1997年よりフリーランス、2001年FLAME設立。

電通 クリエーティブディレクター/アートディレクター
田中 元(たなか・げん)

1969年生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。グラフィック、CM、キャラクター開発、空間演出イベントからパンツのデザインまで幅広く手がける。

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