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【テレビCM’80─’90】新しい方法論を競って開発した時代

黒須美彦(クロロス)

80~90年代は「CMの新しい方法論を探して、クリエイターたちが積極的に知恵を絞り合っていた」とクロロスのクリエイティブディレクター 黒須美彦さんは話す。当時活躍していたCM制作者と共に、印象に残ったCMを振り返る。

新たな手法の開発に誰もが研鑚を重ねた

──80~90年代は、企業にとってのテレビCMの位置づけが今とは異なっていましたよね。

今はWebやSNSなどさまざまなメディアがありますが、昔はテレビが絶対的なメディアでした。だからテレビCMでいかに目立つか、いかに面白いと思わせて商品や企業を認知させるかに重点が置かれていました。広告の構造も、今よりシンプルだったと思います。目立つための新しい方法をわれ先にと手がけることに夢中で、「あれやられた」とか、「じゃあ違うことしよう」とか、方法論で競い合ってたわけです。ある意味、嫉妬の歴史だったとも言える。嫉妬するエネルギーが時代を形成していた。

──例えば、どんな新しい手法がこの頃生み出されたのでしょうか?

昔はテレビの画面の比率が4:3でした。それを生かしたのが、フジテレビの企業広告「テレビって」篇です。テレビの画面いっぱいにキャラクターの顔を収めることで、各家庭にあるテレビがフレームも含めて「てれびくん」というキャラクターになってしまう。電通でCMプランナーをしていた安西俊夫さんの仕事で、すごく賢い方法だと思いましたね。

昔はテレビの上にミカンを置いている人がたくさんいたので、てれびくんがCMの中で「なんか置きましたか?みかん」と言って、目線を上にする。この発想がすごいなと。JR東海の「そうだ京都、行こう。」のあの音楽の入り方を考えたり、小学館の「ピッカピカの一年生」の企画を杉山恒太郎さんと手がけたのも安西さんですよ。そんな安西さんを慕っていた人は多くて、その中の1人が佐藤雅彦さん。彼はリズムやトーンをつくる天才です。

フジテレビジョン「テレビって」

  • 企画制作/電通+ティー・ワイ・オー
  • CD+C/佐々木宏
  • CD+企画+C/安西俊夫
  • 企画+C/永井大典
  • 演出/早川和良
  • PR/宇井実

──佐藤さんが手がけたCMに、湖池屋の「ジャガッツ」がありますね。監視カメラに映った窃盗犯を確認するという設定で、商品名を何回も繰り返す。

彼は商品名をただ連呼するだけではなく、物語の中でリフレインさせる手法を見つけたんですよ。俳優の萩原健一さんが出演していたサントリー「モルツ」のCMでも商品名を繰り返す歌を作って、見た人たちの脳に少しずつ刷り込んでいくんです。

湖池屋 ジャガッツ「主婦と犯人」

  • 企画制作/電通+電通テック
  • 企画+C/佐藤雅彦
  • 企画+C+演出/あらい文彦
  • PR/加藤秀人

──人の脳への作用を設計しているというか。それを嫌な印象を与えずに面白いCMに仕立ててしまうアイデアが素晴らしいですね。

音の構造もすごいのですが、「うまいんだな、これが」というコピーも秀逸でした。この納得感のあるコピーが最後に受けてくれて成り立つ。佐藤さんの仕事には、JR東日本の「Tokyo Train」シリーズもあります。シズル広告といえば、ビールや肉を想像しがちですが、このCMには電車のシズルがある。電車が走る街と人が共生している景色や、生きている幸せの質感を感じさせてくれる。引きのクールな画が続いて、その中を電車が走ると、自然と目が行くという計算が効いています。

同じ鉄道で、三浦武彦さんが手がけたJR東海の「シンデレラ・エクスプレス」も名作CMです。遠距離恋愛を題材にしたのも当時新鮮で、山下達郎さんの楽曲のはまり具合がすさまじかった。音楽タイアップの黄金時代を築きましたね。ブレイクダンスで男性が登場するシーンは甘いファンタジー過ぎて僕は苦手でしたけど、圧倒的に受けましたね …

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