アートディレクターの仕事の範囲が近年広告を超えて広がっている。ここからは2000年以降のアートディレクションを、博報堂の小杉幸一さん、電通の八木義博さんと振り返る。
アートディレクターが作った異色のユニクロ/フリースCM
八木:ユニクロのフリースのCMが出たのが、ちょうど2000年なんです。レーンに乗って流れてくるカラフルなフリース。ナレーションも音楽もなくて、レーンの音だけ響いている。まるでアート作品のようで、家のテレビで見て衝撃を受けました。アートディレクターのタナカノリユキさんの演出で、これはCMだけど、まさにアートディレクションですよね。そして、50色あるフリースをどう見せるかという課題を解決している。
いまのユニクロの広告のトーン&マナーはこの頃でき上がったと思います。この後、こうしたトーンのCMが見られるようになりましたが、ストーリーテリングのCMが多かった当時、これは異色でした。アートディレクターが作るCMのお手本とも言えるものです。
それから、同じ頃よく見ていたのがマグライトの広告です。大学生の頃、僕は新聞広告を集めて部屋の壁に貼っては、いつか自分もこういうものが作りたいと思っていました。その中で一番気に入っていたのがマグライトなんです。アートディレクションは川口清勝さん、写真は藤井保さんで、一緒に旅しながら撮影したと聞いたことがあります。この広告はコピーがなくて写真だけですが、明かりが大事であることがすぐに伝わってきます。多くは語らずとも、コミュニケーション力の高い広告です。マグライトの懐中電灯がタグラインのように横向きに置いてあるところも洒落ていて好きですね。
続けて、コピーライター 秋山晶さんとアートディレクター 細谷巖さんが長年にわたり作り続けているキユーピーの広告を挙げたいと思います。お2人とも80歳を超えていますが、いまも変わらずキレキレです。キユーピーの中でも、僕は特に野菜の断面にコピーが載っている「speed!」のシリーズが好きです。ちなみに秋山さんはキユーピーのコピーを書く際にはものすごく調べるので、コピーの完成まで何カ月もかかるのだそう。細谷さんにはでき上がったコピーだけ渡して、後の料理はお任せする。そういうやり方をしているそうです。
小杉:打ち合わせが長いからいいものができるわけではないことを証明していますね。

ファーストリテイリング「ユニクロのフリース.com」
- 企画制作/ピラミッドフィルム
- CD+企画/ジョン・C・ジェイ
- CD+企画+C/佐藤澄子
- AD+企画+演出/タナカノリユキ
- PR/原田雅弘、中根宏明

三井物産/MAG-Lite 新聞広告
- 企画制作/TUGBOAT+TUGBOAT2
- CD+AD/川口清勝
- D/加藤建吾
- C/秋山晶
- 撮影/藤井保


キユーピー「speed!」
- 企画制作/ライトパブリシティ
- CD+C/秋山晶
- AD/細谷巖
- D/竹村朋子
- 撮影/中島古英
- PR/安田あゆみ
広告の自由さを感じた「キユーピーハーフ」
八木:キユーピーハーフもコピーは秋山さんですが、デザインは服部一成さん。「カロリー半分」というメッセージを、キユーピーマヨネーズとは違う見せ方でどう見せていくか。それに対する服部さんの答えが、このケーキや豆腐が飛んだ広告でした。これは当時のライトパブリシティの屋上で、ポラロイドで撮影したと聞きました。「広告とはなんて自由なんだろう」と思って、広告界に入ったのですが、いまのところ自分では全然できていません(笑)。
小杉:衝撃でした。広告とはこうあるべきという既成概念をひょいと飛び越えていった感じがしました。
八木:「ひとりがいい。ひとりでなくてもいい。」や「自分について考えることがあります。」というコピーがあるのですが、マヨネーズをこんな風に深めていけることに感動しました。福山さんが出演して少し方向性が変わりましたが、初期のキユーピーハーフの広告は女性の切り取り方が秀逸で、独特の世界観がありました。

キユーピー/キユーピーハーフ
「自分について、考えることがあります。」雑誌広告
- 企画制作/ライトパブリシティ
- CD+C/秋山晶
- AD+D+撮影/服部一成
広告に留まらない展開を見せた「8月のキリン」「リスモ」
小杉:武蔵野美術大学3年生の時、森本千絵さんが関わった「8月のキリン」のポスター作りに参加したことがあるんです。武蔵美の広場に何十台ものイーゼルが並べられ、聖獣と「8月のキリン」の文字、CIなどの情報がすべてシールで用意されていて、B0サイズの紙をキャンバスにしてポスターを作るというものでした …