ファッションデザイナーの森永邦彦さんは、デジタルテクノロジーをファッションに取り入れた先陣としてのイメージが強い。7月に日本科学未来館で行った、暗闇の中で空間を知覚する服の体験型展示「echo」も話題を集めた。そういった発想はどこから生まれてくるのか、以前から気になっていた話を聞きに行った。
「服によって日常を揺るがすこと」をやっていきたい
メディアで垣間見る森永さんの様子から、明快な主張を言い切るキャラクターを、勝手に想像していたのだが大間違い。お会いして、穏やかで物静かな佇まいの方と感じた。ただ、自身が手がけている「ANREALAGE(アンリアレイジ)」をはじめ、数々のプロジェクトについて語り出すと、紡ぐ言葉に淀みはなく、強い思いがこもってくる。新しいものを創造すること、ファッションを生み出すことが大好きという人柄が伝わってくる。
ファッションの道に入ったのは、予備校時代に、某私鉄線の車内で突然始まったファッションショーに、居合わせたことだった。「神田恵介さんが行ったゲリラ的なショーを目の当たりにして、日常が服の存在で変わる瞬間に心揺さぶられたのです」(森永さん)。神田さんが在籍していた早稲田大学に行きながら、専門学校に通ってファッションを学び、自身のブランドを立ち上げた。「アンリアレイジ」とは、「REAL(日常)」、「UN-REAL(非日常)」と「AGE(時代)」を掛け合わせた言葉だ。
「毎日見ている景色に、力を持った服が入るだけで、ワクワクしてしまう。服によって日常を揺るがすことをやっていきたい」という森永さんの話に、今のファッション業界が抱えている課題が重なってみえた──流行りの色やかたちをほどほどに盛り込んだ服が、ずらりと並んでいても、人の心は動かない。バーゲンでさえ、服が売れなくなっているという事実が、それを表している。そうではなく、ファッションというものが本来持っている、人の心を動かす体験が求められているのではないかとつくづく思う …