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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

2017年YouTubeベストCMに見るアメリカの心と世相

楓セビル

ステートファーム「Following, Neighborhood of Good」

2018年、米国はさまざまなネガティブな事件や問題を抱えながら幕を開けたが、中でもハリウッドから始まったセクハラ、パワハラ問題は、米国のビジネスの中に飛び火し、#MeToo 運動を巻き起こした。今回のコラムでは「消費者が選んだ2017年YouTubeのベストテレビCM」を紹介するが、本題に入る前に、いま米国の広告界に起こっている#MeToo 問題を簡単に説明しておきたい。広告ビジネスに関係するすべての人にとって、この問題は無視できない、または無視すべきでない問題だと思うからだ。

#MeToo 問題と広告界

米国広告界のセクハラ、パワハラ問題は今に始まったことではない。伝統的に米国の広告界には常に女性蔑視、人種偏見などが存在していた。女性クリエイティブディレクターの希少さ、オールドボーイ的な仕事場の雰囲気、黒人やアジア系アドマンの数の少なさなどの形で現れてきている。

2016年、JWT グローバル・コミュニケーション・オフィサー Erin Johnsonがセクハラと人種偏見的言動を理由に、当時のJWT CEO Gustavo MartinezおよびJWT/WPPに対して起訴を起こした事件はその氷山の一角だ。この事件で、Johnsonが一時的にしろJWTの職場を離れざるを得なかったのに対し、当のMartinezはニューヨークのJWTを離れて自国のスペインに帰国。WPPは彼をクビにせず、いまだにスペインのWPP系の会社で優遇している。WPPがMartinezをいまだに雇っているという事実は、結果的にセクハラを奨励、もしくは容認していることに変わりないと非難するアドマンは多い。

また、#MeTooは、他の広告会社にも起きている。Geicoの仕事で数多くの賞を獲ったマーティン・エージェンシーのチーフ・クリエイティブ・ディレクター Joe Alexanderが2017年12月初頭、突然辞職した。理由は彼の数年にわたるセクハラ、パワハラ行為を訴える数人の女性社員が現れたからだ。マーティンにはすでに長い間、セクハラ、パワハラを助長する雰囲気があったようだと、『MEDIA POST』は報告している。

事実、昨年の末にリサーチ会社ライトスピードが行った調査にも、広告業界に働く男性の80%、女性の89%が、同僚がセクハラ、パワハラを受けているのを目撃していると報告している。リベラルなはずの広告業界でも、セクハラ、パワハラは決して無関係ではないのである。

世相を反映したベスト・ムービー

さて、長い前置きになったが、本題の2017年度YouTube TopCMに入ろう。このイベントは、毎年暮れにYouTubeとWebby賞が共同で実施。消費者による投票で選ばれる。今回選ばれたCMは、2017年の米国市民のムードや価値観、ニーズなどを反映していたように思う。トランプ大統領の常軌を逸したナルシズム、エゴイズム、真実味や知性に欠けるTweet政権、子ども騙しのような外交政策などの中で、自分の生き方は政府に求めず、自らの手で掴もうという米国市民特有の国民性が姿を見せている。2017年のベストCMの選択対象にはならなかったが、その路線を行く新しい作品も同時に紹介したい。

1 ステートファーム「Following, Neighborhood of Good」(付いてゆこう、善意の隣人たちに)

地下鉄の中で座っている青年は、目の前のシェルター犬の飼い主を求める広告に気づく。青年の心の中に同情心が起きると、その犬が彼の横の椅子に現れ、電車を降りた青年についてくる。青年がオフィスまで歩いていく間に、犬の他にホームレスの男性、中学を途中退学した少年、身体障害者、ガンを患う幼児、北極熊などが青年の後ろからついてくる。これらの人や動物を助けるにはどうすればいいのか …

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