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楓セビルのアメリカンクリエイティビティ NOW!

米国の良心の歴史 75才になった米国アド・カウンシル

楓セビル

「ADOPTUSKIDS」は、ともすると難しい問題を抱える子どもの養子縁組を、明るく、ポジティブに捉えたことで、多くの人の共感を呼んだ。制作はKSB。

米国広告業界の"良心"とも言われるアド・カウンシル(米国公共広告協会)が今年、75周年を迎えた。米国の文化や米国人の習性を変える数々の名キャンペーンを送り出しているこの財団は、1942年に"知る人ぞ知る"という背景の中で誕生した。

太平洋戦争勃発後、当時の米国大統領フランクリン・ルーズベルトは、企業のエグゼクティブ数人をホワイトハウスに招聘した。J.ウォルター・トンプソンでコピーライターとして名声を馳せ、当時はエグゼクティブの座にいたジェイムズ・ウェブ・ヤングもその一人だった。

大統領は戦争を乗り切るために、広報活動をしたいと彼らに話した。戦争国債の販売、ビクトリー・ガーデン(市民の家の庭に野菜や果物、薬草などを植える運動)の推奨、工場で働く女性のリクルート、スパイの耳に機密情報が入ることを警戒した会話への警告などだ。後にアメリカ人の日常語になった「ルース・リップス・シンク・シップス」(Loose Lips Sink Ships=軽口が軍艦を沈める)なるコピーも、この時生まれたものだ。そして、こうした運動の本拠地として、ウォー・アドバタイジング・カウンシル(米国戦争広告機構)が誕生した。

米国の歴史を語る数々のキャンペーン

米国戦争広告機構が戦争をバックアップするために行った広告キャンペーンの驚くべき効果をみて、広告のパワーと重要性を認めた米政府は、社会的な問題への一般市民の関心を高め、特定の問題に対する市民の態度を変えるための公共メッセージを送る活動を継続的に行うことを推奨した。現在のアド・カウンシル(以後AC)は、こうして1942年に誕生した。

それ以来、ACはその時代ごとに米国社会が直面していたさまざまな問題を浮き彫りにするキャンペーンを発表している。

「取り組むべき社会問題を知るためのリサーチが行われ、テーマが役員会で決められ、その解決となるアイデアを広告会社がプロボノ(社会奉仕)で制作します。キャンペーン後は、効果を知るために必ずROIリサーチを行います」と、ACの広報部長エリン・フィッシャーは言う。「ACはブランド広告よりずっと前に、ROIを行なっていた」と、『ADWEEK』誌は書いている。

ACは森林の火事を防ぐ「Smokey Bear」キャンペーンから、2015年の「Love has no label」に至るまで、数々の名キャンペーンを送り出している。この卓越した組織であるACの75周年を記念して、名作キャンペーンの中から、米国市民の間に定着し、米国のサブカルチャーの一部になっているキャンペーン5つを紹介したい。

(1)森林火災防止キャンペーン(1944年)

スモーキーという森に住む熊のキャラクターを使ったこのキャンペーンは、現在まで続く最も長いキャンペーンである。

太平洋戦争時、日本軍の軍艦が米国西海岸あたりに出没した。そこから打ち出される大砲の弾が、西海岸一帯の森林の火事を誘発する可能性が高くなったことから始まった。しかし、このキャンペーンは当初、なかなか米国民の心をつかむことができなかった。そこで、子どもたちの間で人気があった映画「バンビ」(1942年)の主役バンビをキャンペーンのキャラクターに使った。

ところが、ディズニーはバンビの使用を1年しか許可しなかったため、米国森林協会とACは、バンビに変わる新しい動物キャラクターを生み出す必要に迫られた。その結果生まれたのが、スモーキー・ベア(熊)である。森林を愛する温和で優しくフレンドリーなスモーキーは、たちまち子どもたちの人気者になり、2015年の調査では米国人の94%が「Only You Can Prevent forest fire」(森の火事を防げるのはあなただけ)というキャッチフレーズを知っていた。キャンペーンを始めて以来、森林の火事の回数も大きく減少している。

1944年に登場後、いまでも子どもだけでなく大人にも人気がある「Smokey Bear」。アド・カウンシルで続いている一番長いキャンペーン」。

(2)飲酒運転防止キャンペーン(1983年)

米国成人の90%が、キャンペーンのタグライン「Friends Don't Let Friends Drive Drunk」(友達なら、酔った友達に車を運転させたりしません)を知っており ...

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