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トップクリエイターのすごい打ち合わせ

お茶を制する者は打ち合わせを制す

丸若屋

さまざまな日本の伝統工芸文化のプロデュースや海外への発信を行ってきた丸若裕俊さん。最近は打ち合わせの前にお茶を淹れ、自ら振舞っているという。時間を見つけては、全国の茶畑や生産者の元へ訪れるほどののめり込み具合。なぜ、丸若さんは打ち合わせでお茶を淹れるのか?

アウトドア用のガス缶で鉄瓶の湯をわかし、急須と湯冷ましを使い、アンティークの時計で時間を図りながら、丁寧に日本茶を淹れる。この日淹れてもらったのは、佐賀嬉野産の新茶を使った釜炒り茶。

相手をどう楽しくさせるか想像しながら準備する

取材に行くと、打ち合わせ机の上で鉄瓶が湯気を立てていた。「今日は暑いから、最初は水出し茶にしましょうか」。透明なガラスの薬瓶の中にティーバッグを入れ、冷たい水を注ぐ。それをバーテンダーのように抱えてシェイクする。「抹茶と同じ原理で、振ると甘味が出るんです」。注がれた冷たいお茶をまず一口。のどの渇きがおさまり、外の暑さがすっと遠くなる。

続けて、淹れてもらったのは釜炒り茶。鉄瓶から湯冷ましにお湯を移し、それを湯のみに移し、最後に急須に入れる。「こうして入れ物を移すたびに、お湯の温度が約10度下がるんです」。アンティークの時計で時間を計りながら、急須から今度は湯冷ましにお茶を注ぎ、最後に湯のみへ。日本茶を微発酵させてあるこのお茶は、烏龍茶に似た透明感のあるさっぱりした後味。普段飲んでいる日本茶との味の違いを舌の上で探しているうちに、感覚も細やかに整ってきた。

こんなふうに打ち合わせの前に丸若裕俊さんがお茶を振舞うようになったのは、ここ2年ほどのことだという。「簡単に言えば、お茶にはまっちゃったんです」。きっかけは同世代の茶師である松尾俊一さんとの出会い。「松尾さんは優れた生産者であるのと同時に、天性の茶の調香師。シチュエーションに合わせて、あらゆる味わいのお茶を調合します。僕もそれまで、さまざまな道具を組み合わせることで新たな提案をしてきたのですが、道具の延長で、その時々に合ったお茶を選ぶのが楽しいと感じるようになったんです」。

例えば、その日の打ち合わせの相手がデザイナーなら、珍しい道具を選べば関心を持たれて話が弾むのでは?と考える。もう少し堅い仕事の人なら、水出し茶の方が気負わず美味しさを味わってもらえるかもしれないと思う。お茶は相手とのちょうどいい距離感をつくるためのツール。「お茶を淹れるようになってから気づいたんですが、あの人にどのお茶を出そうか?と考えることは、そのまま打ち合わせの準備になる。お茶のことを考えている時間は、イコール相手のことを整理して考えている時間です。心の準備をして打ち合わせに臨めるようになるから、僕にとってもいいんです」。

水出し茶は、薬瓶にティーバッグを入れ、冷たい水を注いでシェイクして作る。

お茶を淹れる時間が打ち合わせの空気を変える

打ち合わせの冒頭でいきなりお茶を淹れ始めると、たいていの人はびっくりする。「一体何がはじまるんだ?という空気になります。お茶が話の糸口になって、話題が広がっていくこともありますし。僕が打ち合わせでお茶を淹れる理由は、ひとつは打ち合わせのイマジネーションを広げるきっかけになってほしいからです。もう一つは、お茶自体について改めて興味を持ってほしいからでもあります」。

本当に大事な打ち合わせほど、そこにいいお茶があるべきだと丸若さんは言う。「大事な打ち合わせで、お酒を飲みますか?きちんと手をかけて作られたお茶を飲みながら、意見をぶつけ合う時間を僕は大事に思うし、そこまで飲む物にこだわれば、器も自然と選ばれてくるはずです」。

本来茶の場というのは、政治の話をする場所にも用いられていた。「味や道具の話をしながら、『ここまで考えている人間なのか…』と思わせたところですかさず、『ところで』と政治的な要求をする。すると相手はのまざるを得なくなる。お茶というのは、相手の度量や人間性をはかるツールという一面があります」。

とはいえ、現代の打ち合わせにおいては「ティータイム」を演出するくらいのスタンスが程よい塩梅。丸若さんは外の打ち合わせでもお茶を淹れられるように、お茶・器や急須・ガス缶などをセットで木箱に入れて持ち歩ける「お茶キット」も目下開発中だ。「打ち合わせという場に対して自分ができることは何だろうと考えて。そのうち、色々な人の打ち合わせにお茶だけ淹れに行く、ということもやってみたい」。

茶道具は、和洋折衷、産地も年代もバラバラだが、黒、白、シルバーの3色に限定することで統一感を生んでいる。色で主張しないことで、質感が逆に生きてくる。

お茶は2020年の「おもてなし」になりえる

よいお茶は、打ち合わせのパフォーマンスを上げるだけではない。例えば2020年に五輪で日本を訪れるアスリートたちに対する「おもてなし」にもなりえる。「例えば彼らが泊まるホテルに、健康面も味覚面でも優れたお茶がセットされていたら…?彼らはそれを『日本流のおもてなし』と捉えて、自分たちの国に帰って話をしてくれるんじゃないか。そういうアプローチだってできると思います」。

日本人自身にも、もっとお茶を飲んでもらいたい、お茶の味を知ってもらいたいと丸若さんは言う。「日本人って謙虚な国民性なのに、『日本のご飯は世界のどこよりもおいしい』と、食にだけは自信を持っている不思議な国民なんです。日本茶も同じように、日本人が世界に誇れるものになってほしいと思っています」。

形式にとらわれず、自分のエゴでもなく、相手とのコミュニケーションを大切に、何より自分が楽しむ姿勢がお茶では大事。自分が気に入ったお茶を選び、気に入った道具で飲むことなら、明日からでもできる。たかがお茶、と侮るなかれ。いつも出すお茶を少し変えるだけで、あなたの打ち合わせの時間は、これまでと違うものになるかもしれない。

丸若屋 丸若裕俊(まるわか・ひろとし)
2010年に丸若屋を設立。21世紀の文化を生み出すため、日本の技と美しさを再構築、新たな視点から提案をする。2014年、パリのサンジェルマンにギャラリーショップ『NAKANIWA』をオープン。2016年1月にはパリのマレ地区にオープンした『アトリエ・ブランマント』にも参加する。

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