
IBMは人工知能「ワトソン」を主役にしたCM2本を米国アカデミー賞でオンエアした。最初のCMは「スター・ウォーズ」に登場したロボットやレイア姫を登場させ、ロボットの世界も大きな進展を遂げていることを訴えている。
かつて『スター・ウォーズ』でレイア姫を演じたキャリー・フィッシャーが、たくさんの古ぼけたロボットに囲まれて座っている。現代社会では使い物にならなくなった古いロボットたちを再度トレーニングするために、IBMの最新のAIロボット“ワトソン”をみんなに引き合わせようとしているのだ。古いロボットたちは不満である。「ワトソンは何が得意なの?」「私は人間の気持ちがわかり、人間と一緒に仕事をすることができます」とワトソン。「私、人間と仕事するの、大嫌い!」と、あるロボットが言う。他のロボットもそれぞれに同じようにがなりたて、ミーティングは騒然となる。「ちょっと、みんな。しょうがないわねぇ。コーヒーブレイクにしましょう」と、キャリーが古いロボットたちを鎮める。
このCMはIBMのAI(人工知能)の成果を訴求するためのBtoB広告である。IBMはさらに映画監督リドリー・スコットとワトソンが対話するCMも制作。驚くことに、このCMをアカデミー賞の番組の中で流したのである。米国ではテレビが昔の栄光を取り戻せる番組といえば、スーパーボウルとアカデミー賞だ。この二つの番組が放送されると、娯楽といえばテレビしかなかった昔のように、多くの視聴者がテレビの前に集まる。いうまでもなく、二つとも一般の生活者を対象とした番組である。それにもかかわらず、IBMは高価なスポット料金を払い、アカデミー賞でBtoBのCMをオンエアしたのである。また、商品の性格からしてBtoBでしかあり得ないインテルやGE、アドビも、大枚500万ドルを払ってスーパーボウルでCMを流している。これまでBtoB広告は、テレビ以外のメディアを使ってひっそりと展開されていた。一体、BtoB広告の世界に何が起こっているのか?

同じくIBMワトソンを主役にしたCM。ここでは映画監督リドリー・スコットとワトソンの対話を描き、人間とリアルタイムで応答できるワトソンの性能を見せている。このCMシリーズには他に、ボブ・ディラン、セリナ・ウィリアムズなども登場している。
新しいBtoB広告の台頭
“brand & boring”という言葉で語られていた、退屈至極なBtoB広告が、数年前から大きく変わり始めた。CMやオンラインビデオ、雑誌やアウトドアの広告なども、BtoC広告のようなストーリーテリングで面白いものが増えている。
この変化のきっかけになったのは、2014年、クレーン社(アドエージ誌の親会社)が同社のBtoB情報誌「BtoB」をアドエージ誌の一部に組み入れたことだと言われている。アドエージ誌はそれをきっかけに「BtoBとBtoCのコンバージェンス(合体)」を唱え、BtoB広告に関する情報、ニュースに力を入れると同時に、BtoB広告のクリエイティビティに関しても気を配るようになった。また、アドエージ誌は、BtoB広告は今後どうなるのかについて調査を行い、BtoB広告業界に新風を送り込んだ。それによると、以下に掲げたいくつかの要素が、BtoBマーケティングのトレンドになるだろうと予測している。
●ストーリーテリング
視聴者の感情に訴えるストーリーテリングはBtoC広告だけのものではない。例えば、2015年のアドエージ誌のBtoB広告賞を獲ったGEの「チャイルドライク・イマジネーション」は、GEで働く母親がつくっているさまざまな技術を、子どもらしい空想の世界で語っている。美しく、楽しいストーリーのCMだ。
また、2016年度のBtoB広告賞を受賞した印刷会社ビスタプリントの「ポストカード」も、この線を行くストーリーだ。ベーカリーを営む父親を助ける幼い息子チャーリー。息子をビジネスの後継者と決めている父親は、「バレット&サン」(バレット親子)という名刺とポスターを作り、子どもに渡す。子どもは成長し、自分のキャリアを探し始め …