新しいクリエイティブリレーは、三井化学とコラボレーション。さまざまな素材の魅力の再発見をテーマにクリエイターの皆さんと取り組んでいきます。第1回目は、ドラフト 川上恵莉子さんにSWPの入った合成パルプを使って、“蛍光灯”をつくっていただきました。
豊かな表情を持つ“光の紙”
自分にとって紙は馴染みのある素材。そこで今回はいつもの紙の表現とは違う形で深くエンボスができる、SWPが入っている特殊紙だからこそできる表現って何だろうと考えていきました。
その特性のひとつが、熱を加えると透明になり、光を通すこと。最初に素材の説明を受けたとき、“光の紙”という印象が強く残りました。実際に熱を加えた特殊紙に光を通してみると、柔らかい光がとてもきれいでした。これまで名刺やカードでは見たことがありましたが、この紙の魅力を伝えるのであれば、光を使って見せたほうがいい。そう思い、自分の中で「光を通す」という特性を生かすことをルールに、紙らしさの残すべきところは残し、SWPが入ることで、紙ではつくれないプロダクトを目指しました。
当初はランプシェードのように電球を包むものを考えましたが、もっと紙らしさを活かし、ポスターのように壁に貼ってあるほうが面白いのではないかと思いました。そこに、光と直結するモチーフとして蛍光灯の形をエンボスすることにしました。でも、これがなかなか難しかった(笑)。
特に蛍光灯の形、端についた口金の部分がシャープにならず……。今回の企画は蛍光灯らしさが出ないと、素材の特性とダイレクトに結びついた表現が曖昧になってしまうので、エンボスの形についてはかなり細かく調整していただきました。蛍光灯ランプに描いてあるスペックは熱を加え、文字を通して光が透けるようにしました。化学繊維ですが、ふわふわした質感があるため、光がとても柔らかくなる。思っていた以上に、表情が豊かな紙です。現状はパッケージでの使用が多いと聞きますが、光を軸に考えると、その使用用途ももっと広がる素材ではないかと思います。
川上さんの仕事
新潟県燕市、業務用金属器和田助の新ブランド「Tabar」。写真は、真鍮で作られたアフターヌーンティーのためのトング。
静岡県菊川市、老舗製茶問屋丸松製茶場のブランディング「san grams」。写真は、生産家ごとに作られたシングル茶葉のパッケージ。
※今月使った素材について
SWPは、三井化学のユニークな技術で実現した、天然パルプと同様のミクロサイズに枝分かれした形状を持つ世界唯一の合成パルプです。紙漉きの工程において、天然パルプなどと混ぜ合わせることで、紙に特殊な機能を発現させます。
SWP配合の紙は、染色では実現できない高い白色度、熱をかけると透明に変化すること、熱でシールできること、エンボスで立体表現ができることなどから、デザイン性を活かしたファッションカタログや包装容器、名刺やグリーティングカード、ブックカバー、ランプシェードなどに使用されています。また、日本ではまだ普及していませんが、ヨーロッパでは熱でシールできる特徴を活かして、金属ホチキスを使用しないティーバッグにも応用されています。ホチキスタイプに比べ約4倍のスピードで茶葉を充填できるうえ、金属異物検査ができることで安心・安全に貢献し、電子レンジが使用可能になることで、利便性の向上に役立っています。
DRAFT 川上恵莉子(かわかみ・えりこ)
1982年東京生まれ。アートディレクター。2006年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。08年ドラフト入社。主な仕事に、丸松製茶場「san grams」のブランディング、がまぐち専門店「ぽっちり」のグラフィックや、真鍮を使ったプロダクト「Tabar」など。13年JAGDA賞受賞。15年ADC賞受賞。
- AD+D :川上恵莉子
- 撮影:戎康友(01、およびP69)
- 加工:ツジカワ