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メディア化する企業とコンテンツ戦略

マルチスクリーン時代に対応する、効果的なWEBコミュニケーション戦略

GREAT WORKS 代表取締役社長 鈴木 曜

トリプルスクリーン、さらにはマルチスクリーンとも言われるようになった今、増えた消費者との接点をいかに活用するべきか。オウンドメディアをはじめとするWEBサイトの運営およびストーリーづくりやその戦略からマルチデバイス時代のオウンドメディア戦略を考える。

休日の昼下がり。執筆中の喫茶店の禁煙席。僕はPC、隣の女性はスマートフォン、逆隣のビジネスマンはタブレットとにらめっこ。時はまさに「マルチスクリーン&24時間常時接続時代」とでも言えるような昨今のデジタルシーンの一コマです。

トリプルスクリーンという概念が脚光を浴び出したのは、2009年頃と記憶しています。当時、僕は自動車ブランド「SUBARU」のオフィシャルサイトやソーシャルメディア周りを総括させて頂いていた時期で、同じく当時HONDAのウェブマスターだった渡辺春樹氏からその概念をお聞きし、感銘を受けた記憶が鮮烈に残っています。それももはや3年以上も前の出来事です。その後2010年1月、サンフランシスコで開かれた製品発表会で発表されたiPadも第4のスクリーン、タブレット端末として広く市民権を獲得。トリプルスクリーン戦略は、マルチスクリーン戦略と名前を変え、企業のデジタルコミュニケーション担当者のマーケティング活動に、大きな影響を与えている事象です。

さてここからは、そのマルチスクリーン時代に、企業のマーケターはどのように効果的にお客さまとのコミュニケーションを確立するか、というお話です。僕自身の経験や考えを踏まえていくつか思っていることを書き連ねます。

オウンドメディアの強化とKPIの考え方

マルチスクリーン時代のコミュニケーション戦略上、最も重要と思われるのが「オウンドメディアの強化」です。理由はいくつかありますが、まず、周辺環境の変化により、企業の発信する情報の信頼性が改めて見直されてきている点が挙げられます。ソーシャルメディアが急速に拡大してきたことによる、「良いこと言うに決まってるでしょ」的な企業発信の情報やプロモーションよりも、「リアルなお客さまの声」としての第三者の意見が重宝される風潮が一段落し、ユーザーが情報をフラットに見て、取捨選択しているフェーズに入ってきていると思われます。さらにさまざまなデバイスとメディアの登場により、ユーザーが受け取る情報量は爆発的に増加しましたが、一方で情報の濃度と精度の希薄化は否めない感があり、企業の発信する自社製品情報(サービス情報)は、検索や探索の終着点、最後の砦という社会的責任にも似た使命を帯びるようになってきています。

すなわち、現在のオウンドメディアは、比較サイトやソーシャルメディアなど数多の情報収集サイトの中で、ユーザーが信頼できる唯一の「公式情報」を発信できる基地と言えるでしょう。テレビCMや戦略PR、スマートメディアなどのペイドメディアやアーンドメディアを駆使したコミュニケーションで、ユーザーに認知され、好意的に興味を持ってもらえたとしても、その先に待っているのは、情報収集による理解、そして他社との比較行動です。情報の吐き出し口が増えた今だからこそ、意識的に自社コンテンツに着目していく必要があります。圧倒的な情報量・情報へのアクセシビリティ・ホスピタリティ・おもてなし⋮さまざまな要素を組み合わせて、公式情報発信基地にふさわしい改修工事が必要となります。

そして、オウンドメディアマーケティングを強化する際に外すことができないのが「KPIの再定義」です。僕は宣伝会議の教育講座でいくつか講義をしていますが、さまざまな内容の講座すべてに共通して、受講生の方はKPIについて何らかの課題を抱えているケースが多く、すっきりしないまま日々のサイト運営をしているようです。クライアントとエージェンシーの両岸を見てきた僕の持論ですが、デジタルマーケティングの最重要指標はオウンドメディアの中に設けるべきだと思っています。マルチスクリーンのメリットは、タッチポイントの増加ですが、どこにあっても本質的に伝えたい情報は同じ。だとすれば、アンコントローラブル・アンストッパブルな外的要因に振り回され続けるよりは、自社の保有するメディアで仮説・検証を繰り返し、来訪したユーザーと高確率でエンゲージできるスキームを確立することが、中長期的に見て最も効率的な方法だと思われます。

その上で、該当年度で最適な認知・誘導手段に予算をかければさらに効果が上がるというわけです。

一方で、デザインやUI(ユーザーインターフェイス)に関してもマルチスクリーン時代ならではの課題と向き合わなければいけません。スマートフォンやタブレット端末は、画面サイズの制約、走らせるファイルの制限等はあるものの、技術的にもPCサイトとほぼ同様の技術が適用できるようになりました。つまり、PCでしか閲覧しなかったような情報に、PCとは違うデバイスから容易にアクセスすることが当然の時代になりつつあるということです。こうした流れを受けて、企業サイドもマルチデバイスに対応しようとする動きが活発化しつつあります。現在、各社の動向を見ていると、大きく分けて3つのトレンドに分類できます。

1つ目はPCサイトをベースとした「リサイズ」スタイル。2つ目はデバイスごとに独自のデザインを採用する「セパレート」スタイル。3つ目はワンソースでスクリーンサイズごとにデザインを調整する「レスポンシブWEBデザイン」スタイルです。

「リサイズスタイル」は自社ですでに運営しているWEBサイトをそのまま表示させるという最もシンプルなものですので、既存の資産が活かせます。しかし、表示領域の違いから来るフォントや画像の見づらさや、クリックの難しさというユーザビリティ上の不協和音が露呈してしまうケースが散見されています。ちなみに何も対応策を講じなかった場合もリサイズスタイルに分類されます。

「セパレートスタイル」は、それぞれに専用のデザインを用意するため、デバイス毎の長所を最大限活用できます。当然ながら最も効果的な方式かと思われますが、如何せんコストが嵩みます。リニューアルの度にデバイスごとのデザインを用意しなくてはいけないわけで、工数もデバイスの数だけ発生します。短期的なキャンペーン等には最良かもしれませんが、永続的な力を備えた方式とは言い難いのも事実です。

最後は、近年日本でもよく聞くようになった「レスポンシブWEBデザイン」、ここでは細かい技術的な話はしませんが、デバイスごとに複数のデザインを用意するのではなく、ブラウザのウィンドウサイズに合わせてデザインをフレキシブルに調整する制作手法です。レスポンシブWEBデザイン自体は、新しい概念というわけではなく、2010年にアメリカで提唱される前から海外では多くのWEBサイトで採用されています。僕自身、スウェーデンのクリエイティブエージェンシーに所属しているので海外のプランナーと仕事をする機会が多いのですが、最も彼らの推奨率が高い方式でもあります。どの方式が正しいのか、それともすべて正しくないのか、今は答えを出す時期ではありませんが、後にも触れる通り、僕自身はマルチスクリーン時代の戦略構築はスマートフォン攻略が鍵だと考えていますので、少なくともスマートフォンやタブレットでの情報展開を、PCサイトの派生と捉える考え方はあまりおススメしません。これはデザインだけでなく、コンテンツに関しても言えることです。自社や自社の置かれている環境を踏まえ、中長期的な視点で最適な方法を選択していく必要があります。もう一度言いますが、まずはオウンドメディアがちゃんと機能しているか? K P I は適正か? ということを確認しましょう。

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