中途半端な情報開示が生む混乱
タリーズコーヒージャパンは10月、自社ECサイトへの不正アクセスで、9万人超の個人情報と5万人超のクレジットカード情報が漏洩した可能性があると発表した。
ウェブリスク24時
ブログや掲示版、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
小売大手の米ウォルマートの広報部門が、自社に関して書かれたニューヨークタイムズの記事に赤入れ修正したものを自社の公式ブログで公開した。
長らく広報の仕事をしていれば、不正確な情報や記者の勘違い、あるいは憶測に基づいた報道に頭を抱えた経験がある人は少なくないだろう。そしてこの種の問題には、メディアに対する訂正の申し入れや、公式な声明を出すことが一般的な対応だ。しかし実際には、あまり有効な手立てを取れない場合も多いのかもしれない。
その意味で今回、米ウォルマート広報部門のバイスプレジデントであるデビッド・トーバー氏がとった行動は、大胆で広く広報関係者の目を引くものだった。
なんとニューヨークタイムズに掲載されたコラムについて、記事に赤ペンで校正コメントを入れ、執筆者に対して「最初のドラフトをありがとう」「不正確な部分が報じられることのないように、書き込んでおいたよ」などと皮肉たっぷりなメッセージを付け加えて、自社の公式ブログで丸ごと公開してしまったのだ。
このニュースを見た日本の広報関係者からは、「ウチではちょっと無理だろうな」という声が多かった。記者との関係が壊れる、あるいはこうした発信によって、結果的に自社に対するネガティブな印象を広げる、という懸念を持つのが一般的のようだ。
また同時に、こんな強気な対応ができることを羨ましく感じる人も少なからずいるのかもしれない。
確かに最初は覚悟が必要かもしれないが、ソーシャルメディアが発達し、情報の拡散スピードの速さと有象無象の情報によって無用な混乱が生じることも少なくない現状においては、危機管理という意味合いからも、こうした手段を広報部門として捨ててしまうべきではない。
特に、明らかな誤りや悪意のある報道、ソーシャルメディアなどからのネガティブな反応が大きい場合などは、十分に検討の余地がある方法だ。
広報部門はもともと、その組織に対する正しい理解を得る役割を担っている。決してメディアに従属して「報じてもらう」仕事ではない。ネットなら自分たちの言葉でタイミングを逃さずに伝えることができる。
誤報への対応は、日頃の情報発信力を問われる場面でもある。広報部門としては、安易に誤報を生み出す理由を自分たちがつくっていないかどうかをまずは確認しておきたい。
メディアが、時間的な制約の中、得ようとしている情報を見つけられなければ、不正確な情報が混ざって報じられる可能性がある。自社に求められている情報をタイムリーに、見つけやすい形で発信できているのかを見直すのにもいい機会だろう。
ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。日本パブリックリレーションズ協会理事。中小企業から国会まで幅広くPRとソーシャルメディア活用の仕組み作りに取り組む。著書は新刊「なぜ経営者は『嘘つき』と言われてしまうのか?PRのプロが教える社長の伝え方・話し方」(日経BP)ほか25万部超のベストセラー「頭のいい説明 すぐできるコツ」など多数。公式サイトは http://tsuruno.net |