2015年春に控えた北陸新幹線延伸開業の効果を活かそうと、富山県黒部市に製造拠点を持つYKKグループでは地域本来の魅力を活かした街づくりに着手している。
黒部にあるYKKグループの社宅跡地を活用した「パッシブタウン」の完成イメージ。
本社機能を一部移転
2015年春に長野−金沢間が延伸開業する北陸新幹線。中でも、富山県では、新幹線開業で東京からのアクセスが約1時間短縮されるとあり、開業を観光客や企業誘致につなげようと沸き立っている。こうした中、富山県黒部市に生産拠点を持つYKKグループでは、富山県や富山県黒部市と連携し、地域活性を目指した取り組みをスタートさせている。
YKKと黒部市とのつながりは古く、1955年から富山県黒部市に生産工場を設置している。以来、自治体や地元経済界と連携し、地域活性化に向けて様々な取り組みを進めてきた。地域の観光名所にしようと、2006年には、工場見学ツアー「YKK TOURS」をスタート。また、2009年からは黒部事業所や丸屋根展示館などで構成する施設「YKKセンターパーク」として一般公開を始めている。
こうした中、新幹線開業にかけるYKKの思いは強い。開業を見据え、これまで東京に置いていた本社機能の一部を黒部市に移し、グループ全体で230人の社員を黒部へ異動させるという気合の入れようだ。また、富山県が主催する「新幹線戦略とやま県民会議 新川地域会議」の代表を吉田忠裕会長が務め、体験型観光の検討、観光ルート・二次交通研究、6次産業化への対応などについての検討に携わっている。
自然エネルギー活用のモデル都市
さらに、注目すべき取り組みも始まった。老朽化により解体したグループ社員用の社宅の跡地を利用し、風や太陽の熱を利活用することで、冷暖房を使わずにも快適に過ごせる「パッシブタウン」を建設するというものだ。
現地の広報を手掛ける、YKK黒部広報グループ長の小林聖子氏は「自然エネルギーを活用し、ハイエネルギー(在来エネルギー)への依存を抑えた、未来に向けた地域における暮らしを提案しています。エネルギーへの挑戦であると考えており、現在課題となっているエネルギー問題へ一石を投じる狙いがあります。集合住宅の他に商業施設も併設する予定で、これがきっかけで他の投資が生まれれば地域にとっても嬉しいことだと思います」と意気込む。東日本大震災以降ますます関心が高まるエネルギー問題の解決の一助にもつながるとあって、メディアの関心も高く、ウェブメディアや建築系の専門誌などに取り上げられている。
2015年9月までに一部竣工予定。すでに「パッシブタウンに住んでみたいが、どうすれば住めるのか」といった問い合わせもあるといい、周囲の期待は高まっているようだ。地域の持つ本来の力を活かしたまちづくりを目指す同社。新たな地域活性化のモデルケースとなるかもしれない。