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青山広報会議

片岡英彦×山田まさる×中川淳一郎「戦略PRはどこへ行く?」(2)

片岡英彦×山田まさる(インテグレート)×中川淳一郎

「戦略PRは終わりました。」─。宣伝会議のニュースサイト「アドタイ」にて3月末、このようなタイトルの記事が掲載され注目を集めました。2009年ごろを境に広報・PR業界で定着した「戦略PR」は、これからどこへ向かうのでしょうか?3人のキーパーソンが語り尽くします。
前回:「片岡英彦×山田まさる×中川淳一郎「戦略PRはどこへ行く?」(1)

他社に貢献する「空気づくり」

山田 結局、クリティカルマスに届くか届かないかはプロであれば大体予想がつくんですよね。PRしたいブランドが市場の中でトップシェアなのか、2番手や3番手なのかで戦略PRに取り組む意義が変わるわけじゃないですか。トップブランドなら戦略PRでカテゴリー全体を刺激するのも有効だけど、ただ乱暴に「戦略PRで買いたくなる“空気”をつくってほしいんだけど」みたいなオーダーをしてみても、効果は出にくいわけです。

片岡 中途半端に「戦略PR」という手法を聞きかじった人ほど「空気をつくりたい」って簡単に言ってしまうことがありますからね。でも、よくよくその企業のポジショニングなどをヒアリングしてみると、業界2位でも3位でもなく、もっと下だったりする。そうなるとカテゴリーごと訴求してもしょうがない。空気をつくったら他社の方が売れてしまうじゃないかと。そういう説得をする必要が出てくる。

山田 ブランドとカテゴリーの話ってすごく難しいですからね。僕はブランドのPRってそんなに言うほど簡単ではないと思うんです。

片岡 PRを始める前に、いわゆるマーケティングの「4P(製品・価格・売り場・プロモーション)」をもとに、コミュニケーションデザインを考えることが必要ですよね。そもそも「製品」の力だけで十分売れてしまうものもありますし。プレスリリース1本で日本中が大騒ぎになるような商品なら、それで勝負すればいい。次に「価格」を下げ「ゼロ円」にまですれば、瞬間的な話題づくりはできる。それでもだめなら「都内の1店舗だけ限定販売しますよ」といったように、「売り場」とか顧客接点をいじる。その上で最終手段としてお金を使った「プロモーション」施策がある。場合によってはタレントの力を借りてでもイベントをやるべき時もある。

山田 そういう入口の整理が非常に大事だと思います。4Pとかポジショニングとか差別化とか、マーケティングの教科書に載っているようなことがまずありきで、その上で戦略PRという選択肢があると考え始めないと、どこかで間違ってしまう。

片岡 マーケティング部門の人にとっては4Pの整理は当たり前のことじゃないですか。事前にポジショニングや競合との差別化を整理して、企画書をつくるという作業にも慣れている。でも広報部門の人ってあまりそういう経験値がない。PRを分かっている人がマーケティングなり広告なりを学んで、コミュニケーションプラン全体の立案ができるようになると一番いいと思うんですけどね。

中川 「結局さ、GoogleのAdSenceを買うのが一番KPI達成の近道なんだよね」って言うのが、最近周りで流行ってるんですよ(笑)。PRのアイデアを出したところで、「はんっ!」って、鼻で笑われる。

片岡 「そのアイデアで、どんだけ売れるんですか?」って言われますよね。じゃあAdSenseやりましょうっていう展開なら、僕らPRの専門家を呼ばなくていいじゃないかって話になる(笑)。

山田 メディアを効率的に使うっていう話になった瞬間に、たぶんPRのプロフェッショナルが活躍する場面ではなくなると思うんですよね。

片岡 「空気づくり」なるものが戦略PRの核だとしたら、一番有効な伝達媒体はテレビスポットだという場合もあるわけですからね。

リリースから記事が書けない!

山田 一点だけ、今日どうしても話しておきたいのが、2011年以降、ソーシャルメディアが浸透するなかで企業が「当事者」としていかにブランドコミュニケーションをしていくか、非常に悩んできたと思うんです。

片岡 企業がメディアになりたがっているという話ですよね。

山田 そう。ブランドジャーナリズムみたいな話ね。2009年の戦略PRが登場したばかりのころは「企業や商品の良いところは自分たちが発信しても信ぴょう性がないから、やっぱり第三者に言ってもらったほうがいいよね」っていう考え方がある意味、痛快だったし新しさがあった。でもここへ来て、逆に「それはちょっと気持ち悪いんじゃないの?」「それってステマ(ステルスマーケティング)でしょ?」という論調になってきて。「当事者性」というものに対して、PRはこれからどう向き合っていくのか。この議論が十分されていなかったのかなと。

中川 その問題でいうと、オレ、最近はプレスリリースから記事を書けなくなっちゃったんですよ。リリースをもとに書くと、ネットで見た読者から「リリースだけ見て書いてるのかよコノヤロー!」「リリース程度の情報だったら俺だって見れるんだよ!」と言われるから。ニュースの運営側がステマに加担してると思われるのを極端に恐れていて、自主規制しちゃう。

片岡 ニュースの発信元が企業というだけで、ステマだと勘ぐられると。

中川 そう。だからもっと言っちゃうと、いくら広報担当の皆さんにプレスリリースを送っていただいても、「ごめん。実はあんまり意味がなくなっちゃってます」というのが今の本音です。内閣府の発表とか、官公庁の報道資料だったらいいんですよ。警視庁がオレオレ詐欺撲滅キャンペーン始めましたとか、そういう公共性の高いものなら。企業のものであれば、社会の風潮をどのように反映しているのか─という点を盛り込んでいただきたい。

山田 僕も、中川さんとはちょっと違う意味で、もうプレスリリースをプレスにまいて、お願いして記事を書いてもらう時代ではないのでは、という問題意識があるんです。先日もある新聞記者の方と話をしていて、企業の発表モノをストレートに受け止めづらいっていう話が出てましたね。

片岡 今はネットPRの手法もたくさんありますが、昔ながらのプレスリリースのフォーマットに沿ったものを流すよりも、もっとゆるいもの...それこそ、担当者が日報のような感覚で書いているものを流したほうが効いたりするのかもしれないですね。記者クラブに投げ込む場合には、旧来の形式は必要ですけど。

中川 だから今、PRは非常にやりづらい時代と思うんです。ゴリ押しだのステマだの、ネットで散々騒がれるから企業の人も委縮してしまっている。

片岡 どんな話題にも、今はネガティブな意見が必ず一定量出て可視化されますからね。

中川 いわば、「一億総業界ツウ」みたいになっているんじゃないですか。

日本はなぜPRの地位が低いのか

片岡 そもそも戦略PRと言う以上は、「戦略的じゃないPR」と「戦略PR」は何が違うのかと。疑問ですよね。

中川 それで言うと、日本だと総合広告代理店のプレゼンの順番が「マーケティング」「制作」「セールスプロモーション」「PR」となっているように、PRというものの地位がそもそも低いんですよ。

山田 あるいは、PRは広告の「前座」みたいに扱われてきたとかね。

中川 そうそう。そうなると、たぶんPR会社も、オレがいた博報堂のCC局(現在はPR戦略局)も電通のPR局も自分たちの地位の低さにムカついてたと思うんです。広告会社の営業にも「オマエらなんて所詮さ、スポーツ紙の編集部に水着のお姉ちゃんを連れて行ってるだけでしょ」と思われちゃう。そんなときに「オレらも戦略的にやってんだよ!戦略PRだよ!」って言えるから、「戦略PR」という言葉がPR業界の人に刺さったっていうのもありますよね。

山田 ま、僕らの地位の話はさておき(笑)、「戦略PR」なんて近年言われ始めたけど、「メディアにアタックする前行程の情報をきちんと整理して、戦略的に考えていきましょう。そのほうが効果も高まるし、もしかしたら広告よりも強いインパクトを与えるかもしれませんよ」というのが戦略PRだとすれば、10年前から取り組み始めていることなんですよね。

─最後に、宣伝会議の「戦略PR講座」を受講予定の皆さんから寄せられたお悩みに、お答えいただきます。

山田 「ネットに受けるPRネタがどんなものかは分かるのですが、自社のトーン&マナーに合わない場合、その線引きが難しいです」。こういう課題って最近よく聞かれますよね。

中川 こういう人は上司から怒られたくないだけの人なんです。「わが社のイメージが落ちたらどうするんだ!」と後で言われても私は責任が取れません、と言っているだけですから。

片岡 「会社を潰すほどのプロモーション、ブランドを傷つけるようなPRって何?」っていうことですよね。企業にとって一番深い傷を負うのは「売れない」ということでしょ。皆が一生懸命作った新商品が売れないような事態となれば、それが一番ブランドを傷つけるし、そもそも市場からブランド自体が消えてしまうこともある。

中川 すべての人がそのブランドや商品に好意的な状況になる、なんてありえないですからね。

山田 そうですね。会社が守らなきゃいけないトーン&マナーっていうのが何か、そこをもう少しはっきりさせていくべきかなと。やっぱりブランドも商品も存在を無視されるのが一番痛手なわけで、少なくともどんな変化を望んでいるのか、ポジティブに考えていくことでPRが機能していくのではないかなと思います。

2014年の今 「戦略PR」の争点とは?

片岡さんの視点

1.「空気づくり」だけではマスには届かない。

2.「空気づくり」の結果、自社より他社が売れても良いのか?

3.戦略PR以前に、「4P」の視点でコミュニケーション全体を整理。

山田さんの視点

1.PRは広告の前座ではない。

2.戦略PRが登場した2009年が、PRの役割の分岐点だった。

3.戦略PRが終わったというより、次の段階へ進もうとしている。

中川さんの視点

1.「戦略PR」は、業界内でPRの地位を高めるのが狙いなのか?

2.ステマ騒動以来、メディアはリリースから記事を書きづらくなった。

3.広報担当者も委縮し、PRしづらい時代に突入している。

三者が講師を務める「戦略PR講座」は9月8日に開講します。

コミュニケーション・プロデューサー 国際NGO「世界の医療団」 広報責任者
片岡英彦さん(かたおか・ひでひこ)

日本テレビの報道記者、宣伝プロデューサーを経て、アップルコンピュータのコミュニケーションマネージャー。MTVジャパン広報部長、日本マクドナルド マーケティングPR部長を歴任。ミクシィを経て、株式会社東京片岡英彦事務所代表取締役に。企業のマーケティング支援活動のほか、国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。

インテグレート COO/ コムデックス 代表取締役社長
山田まさるさん(やまだ・まさる)

1992年コムデックス入社。2003年藤田康人氏(現・インテグレートCEO)とB2B2C戦略の立案に着手。2007年5月、インテグレートを設立、COOに就任。2008年コムデックス代表取締役社長に就任。同年「魚鱗癬」啓発活動にてPRアワードグランプリ・日常広報部門最優秀賞受賞。

編集者/PRプランナー
中川淳一郎さん(なかがわ・じゅんいちろう)

博報堂入社後、コーポレートコミュニケーション局で企業のPR業務を手掛ける。2001年に退社し企業のPR活動、ライター、雑誌編集などをしながら、2006年からニュースサイトの編集者に。現在は編集・執筆業務の他、ネットでの情報発信に関するプランニング業務も。

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